消化器内科
Veterinary Internal Medicine
Veterinary Hepatology & Gastroenterology
消化器疾患の動物は、食欲不振、嘔吐、下痢といった消化管の問題を疑う症状のみならず、黄疸、腹水、神経症状(肝性脳症)など肝胆膵の問題を疑う症状が認められます。このような症状を持つ動物を中心に、経験の豊富な内科専門医と専科の獣医師(研修医も含む)により、最新の診断機器を用い診察を行っております。

消化器内科とは
病気は、下痢、嘔吐だけでなく食欲不振、発熱、脱水、貧血、体重減少など非常に曖昧な症状を示すことが多くあります。また、症状がないのにもかかわらず、健康診断の血液検査で「肝酵素値や膵酵素値が常に高い」、超音波検査で「胆嚢に泥や粘液が溜まっている」「肝臓に大きな塊がある」動物も少なくありません。このような動物が消化器疾患のみでなく他の疾患があるかを判断するために、さらなる検査が必要か、積極的な治療(投薬や手術など)が必要かを判断することは困難です。したがって本院の消化器内科では、消化器疾患に限らず動物の身体を全体的に診る“一般内科・総合診療科”という側面も持ち合わせ、内分泌疾患、泌尿器疾患、血液免疫疾患、腫瘍などさまざまな病気を鑑別診断することで、動物にとって最善の治療を提供しております。
消化器内科で診断している主な病気
- 肝臓・門脈の異常:慢性肝炎・肝硬変、胆管肝炎、空胞性肝障害、肝リピドーシス、肝細胞癌、リンパ腫、結節性過形成、動静脈瘻、門脈体循環シャント(先天性、後天性)、原発性門脈低形成など
- 胆道系の異常:胆管炎、胆嚢炎、胆石症、胆嚢粘液嚢腫、胆管狭窄、胆嚢欠損、Ductal plate異常など
- 膵臓の異常:膵炎(急性、慢性)、膵嚢胞、膵腺癌、膵外分泌不全、インスリノーマなど
- 消化管の異常:食道炎、食道狭窄、巨大食道、幽門狭窄、慢性腸炎、蛋白喪失性腸症、リンパ腫、胃腺癌、直腸腺癌、ポリープ(胃、大腸)、腸リンパ管拡張症など
- 一般内科として診断している病気:副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、腎不全、ネフローゼ、多発性腎嚢胞、泌尿器系結石(膀胱、尿管、腎臓)、免疫介在性疾患(不明熱、関節炎、溶血性貧血など)、尿崩症、糖尿病など



腹部超音波検査
お腹の中には肝臓、消化管をはじめとする消化器だけでなく、腎臓や膀胱などの泌尿器、そのほか脾臓、子宮、副腎などの多くの臓器が収まっています。腹部X線検査ではこれら臓器の異常をある程度把握することはできますが、詳細な臓器の形や質、血流の有無などを評価することは難しいです。一方、超音波は麻酔が不要で容易に腹腔内を評価することができるため、胸に聴診器を当てて心音を聴くように、お腹に超音波を当てて病気を探っていきます。初診の際、必ず腹部X線検査と腹部超音波検査によりスクリーニングすることで病気を絞り込むようにします。画像が描出しづらい場合には毛を一部刈ることがあります。
超音波ガイド下で実施する処置
<麻酔が必要でない処置>
- 腹腔穿刺:腹水の採取(性状、細胞診)
- 膀胱穿刺:尿の採取(性状、細胞診、細菌培養検査)
- 細針吸引:細胞診(肝臓、脾臓、リンパ節など)
<麻酔が必要な処置>
- 胆嚢穿刺:胆汁の採取(性状、細胞診、細菌培養検査)
- 細針吸引:細胞診(小さな腫瘤や血管の豊富な部位など)



CT検査
X線検査、超音波検査などで腹腔内臓器、特に肝臓、胆嚢、膵臓に異常があると判断した場合、短時間の麻酔でCT撮影を実施しています。CT検査は超音波検査と異なり、消化管内のガスや内容物に影響されず、X線検査と比較にならない情報量を我々に提供します。また、造影剤(血管、胆管)を使用することで、血管や胆管の走行や腫瘍など鮮明な画像を得ることが可能となります。基本、全身麻酔が必要ですが、短時間の麻酔となります。状態の悪い動物には無麻酔で撮影し状態を把握することもあります。麻酔薬や造影剤は四肢の血管から注入するため、毛を一部刈ります。
CT検査後、肝臓に異常があると判断した場合、細い注射針で肝臓など臓器を刺し細胞をとる検査(細胞診)を実施します。また胆嚢炎が疑われた際、胆嚢に注射針を刺し、胆汁を採取することで細胞診と細菌培養を実施します(穿刺する部位の毛は刈ります)。
内視鏡検査
内視鏡は胃カメラとも言われ、嘔吐や下痢など消化器症状が認められる動物の口や肛門から消化管へカメラを挿入し診断する機器です。全身麻酔が必要ですが、食道、胃、小腸、大腸の内腔を観察することができ、さらに誤って食べてしまった異物の回収や小さい組織を採材(生検)することで病理検査を実施することも可能です。そのほか、食道の一部が狭くなった部位を拡張するバルーン拡張術なども実施しています。内視鏡検査は日帰りの検査となります。また、採取した組織の病理検査は専門医に診断を依頼し、1週間程度で結果が戻ってきます。
診断後は、薬物療法や食事療法の詳しい説明の後、治療を開始します。内科療法は長期間におよぶため、治療は紹介医と相談し連携をとりながら実施していきます。また、治療の効果判定のため、3、6ヶ月の内視鏡検診も実施しております。
経皮内視鏡的胃瘻造設術
- 食欲のない動物には、内視鏡を用いて栄養チューブを設置しています。設置した栄養チューブは長期間使用することが可能です。また、口からも食事や水を飲むこともできます。食欲が改善した後は、栄養チューブを抜去します。




腹腔鏡検査
日本大学動物病院では腹腔鏡検査を20年以上前から内科診療に取り入れ、多くの肝臓病の診断実績を有しております。肝臓は沈黙の臓器とも言われていることから、症状がなくても血液検査で肝酵素値(ALT、ALPなど)の異常が長期間指摘されている動物にも、必要に応じて腹腔鏡検査を勧めています。また、黄疸や腹水などが認められる進行した肝疾患に対しても、積極的に検査することで最善の治療を提供するように日々努めております。
まずは、消化器内科に所属する専門医による診察で腹腔鏡検査が適応であるかを評価します。腹腔鏡検査は外科手術と同様、きれいな状態で検査を行うため毛を広く刈ります。安全のため、動物は一日入院が必要です。
腹腔鏡は身体に小さな穴(5mm)から肝臓やその他の腹腔内臓器を観察できる機器です。腹腔鏡検査は、これら臓器の観察だけでなく、病理検査用の肝臓、膵臓、腎臓の組織採材(生検)を確実かつ安全に行うことができます。
生検した組織は病理検査のため外部の病理専門医に診断を依頼します。肝臓の組織は、細菌培養、肝臓中銅濃度測定も実施します。また、同時にCT検査、門脈造影、門脈圧測定、胆汁採取などを組み合わせることで、さらに正確な診断と適切な治療を提供しています。
診断後は、薬物療法や食事療法に関する詳しい説明の後、治療を開始します。内科療法は長期間におよぶため、治療は紹介医と相談し連携をとりながら実施していきます。また、治療の効果判定のため、3、6ヶ月検診も実施しております。




消化器内科を受診される飼い主さんへ
来院する前日の21時までに食事をすますようにしてください。また、当日の朝はお水のみで来院してください。なお、内服中の薬がある、低血糖を起こしやす動物は事前にかかりつけ医にご相談ください。
消化器内科の初診では臨床病理学的検査(血液検査、尿検査、糞便検査など)と画像診断(腹部X線検査、腹部超音波検査)を実施します。ご飯を食べていると正確な数値や画像診断ができないことがあります。また、午後に麻酔をかけたCT検査や内視鏡検査を行う場合があります。麻酔や内視鏡検査も当日、食事をとっているとできないことがありますので注意ください。
