海遊館の伊東隆臣獣医師を筆頭に,JAMSTECの中島悠研究員と瀬川助教との共同研究成果が,国際学術誌Microbes and Environmentsに掲載されました.ジンベエザメは世界最大の魚ですが,その腸内にすむ微生物の役割はほとんど分かっていません.本研究では,水族館で長く飼育されている個体と新しく捕獲された個体の糞便を調べ,腸内微生物叢を比較しました.その結果,長期飼育個体ではPhotobacteriumが優勢である一方,新規捕獲個体ではUreaplasma(ウレアプラズマ)が高頻度に検出されるなど,顕著な違いが見られました.私たちは,ウレアプラズマに特徴的な「尿素をアンモニアに分解する能力」と,ジンベエザメが回遊中に長期絶食に陥る現象に注目しました.そこから,ウレアプラズマは「外から餌が得られないときに体内の窒素を無駄なく循環させる」役割を果たす共生細菌ではないかと考えています.つまり,ウレアプラズマはジンベエザメが過酷な環境を生き抜くための重要なパートナーである可能性があるのです.本研究成果は,ジンベエザメの健康管理や飼育方法の改善だけでなく,野生個体の生態解明や保全にも役立つと期待されます.
論文タイトル: Comparison of the Fecal Microbiota from Long-term Captive and Newly Captured Whale Sharks (Rhincodon typus)
掲載誌: Microbes and Environments, Vol. 40, 2025
著者: Takaomi Ito, Takao Segawa, Kazuto Takasaki, Takahiro Matsudaira, Itsuki Kiyatake, Hiroyuki Irino, Yu Nakajima
DOI: https://doi.org/10.1264/jsme2.ME25023



