瀬川助教らの研究グループは,マダライルカ(Stenella attenuata)の胃液から新種の微生物「Ureaplasma ceti sp. nov.」の分離に成功しました.本研究はOMRC,日本大学および海洋研究開発機構(JAMSTEC)との共同研究として実施され,微生物分類学における新種提唱の国際的権威誌である International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)に掲載されました(Segawa et al., Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2025;75:006712).IJSEMは国際微生物学連合(IUMS)の分類学部会である国際原核生物分類学委員会(ICSP)の公式ジャーナルであり,新種の有効な記載・命名において最も重要な学術誌です.
イルカは肉食動物であるにもかかわらず,前胃を持つという特異な消化器系を有しています.不可解なことに前胃細菌叢の大半が単一種のウレアプラズマにより構成されている特徴があります.この発見は2016年にされ,以降も様々なイルカにおいて同様の所見が報告されてきました.それ故,イルカとこのウレアプラズマには何らかの共生関係が築かれていることは発見当初から言われていました.しかし,イルカからウレアプラズマの分離培養ができないことが大きな壁となり,共生関係の実態は推論にしかない現状でした.そこで瀬川助教はOMRCと共同してイルカからウレアプラズマの分離を2018年頃から取り組み始め,度重なる試行錯誤の末,2019年に分離培養に成功しました.分離培養に成功した後,生化学的・遺伝学的特性を詳細に解析し,これが既知のUreaplasma属とは大きく異なる新種細菌であることを確認しました. 現在もU.cetiとイルカとの共生関係を検証していますが,生物学・進化学・微生物学の常識を覆す可能性を秘めた成果が出てつつあります.こちらの成果に関しても再現性が取れたら公表していきたいです!
Ureaplasma ceti sp. nov. isolated from the gastric fluid of a spotted dolphin (Stenella attenuata)
https://doi.org/10.1099/ijsem.0.006712
