当研究室と共同研究を行っているつくば霊長類医科学研究センターで飼育されているサル個体において非常に稀有な骨性腫瘍を認めた報告になります。
通常腫瘍は分裂細胞で発生するため、成長後に(ほぼ)分裂しない組織での発生自体が稀です。実際心臓原発の腫瘍は全体の0.1%未満と言われています。
今回サルにおいて発見された腫瘍はその中でもさらに稀少な”骨性腫瘍”と言われるものです。これは骨を構成する細胞が中心となって起こる腫瘍であり、骨の存在しない心臓には本来存在しないはずのものです。ヒトの医療においても心臓内の腫瘍に骨化(異所性骨化)を伴うケースは極めて稀ですが、非ヒト霊長類(サル類)においてこれが発見されたという報告はこれまで一切ありませんでした。
今回私たちが報告したのは、15歳のオスのカニクイザルです。長期にわたる定期健診の中で、約1年半で17%もの著しい体重減少と不整脈が認められたことから、詳細な検査を実施しました。その結果、心エコー検査やX線検査に加え、MRI(磁気共鳴画像装置)を用いることで、右心室内に骨形成を伴う腫瘤が存在することを特定しました。このように、サル類の心臓内にある骨性腫瘤を、動物が生きている状態(生前)で非侵襲的なMRI検査によって捉えたのは、本論文が世界初の報告となります。

なぜ本来骨のない心臓に骨が形成されたのでしょうか。この個体の過去の診療記録を遡ったところ、状態が悪化する9年前に白血球数とCRP(炎症マーカー)の急激な上昇が起きていたことが分かりました。このデータから、過去に三尖弁や右心室壁で感染性心内膜炎などを患い、その治癒過程で組織の石灰化、そして骨化が引き起こされた可能性が推測されました。さらに今回の検査では、心疾患マーカーであるANPやBNPの著しい上昇も確認されました。
カニクイザルをはじめとするサル類は、解剖学的・生理学的にヒトと非常に似通っており、循環器疾患の研究やモデル動物として欠かせない存在です。しかし、動物は体調の悪化を隠す傾向があり、症状が現れた時にはすでに手遅れになっていることが少なくありません。
今回の成果は、長期的な定期健診の重要性とともに、ヒトの医療で用いられるMRI等の高度な画像診断技術を動物の診断に組み込むことの有用性を示しています。このような取り組みは、動物自身の病気の早期発見やQOL(生活の質)向上に繋がるだけでなく、ヒトにおける類似の稀少疾患の病態解明に大きく貢献することが期待されます。
- Antemortem magnetic resonance imaging examination of an intracardiac bony mass in a cynomolgus monkey (Macaca fascicularis)
- Yasuyo Ito Fujishiro, Shunya Nakayama, Ibuki Yoneda, Yuki Mega, Tadashi Sankai, Yasuhiro Yasutomi, Naohide Ageyama, Hiroshi Koie
- Journal of Veterinary Medical Sciences
- DOI:10.1292/jvms.26-0046



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