今回我々獣医生理学研究室とつくば霊長類医科学研究センターの共同研究として、サルの心臓検査にヒトなどで用いられているNT-proANPが利用可能であることを示しました。本論文は実験動物専門誌Experimental Animalsに掲載されます(現在先行公開)。
心臓に負担がかかると、心臓から「ANP1」という物質が血液中に出てきます。これは、心臓の状態を知るための「目印」のようなものです。
ところがANPは、血液を採ってからすぐに変化してしまうという弱点があります。そのため、これまでの検査では血液をすぐ処理する必要がありました。
そこで今回注目したのが、ANPが作られるときに一緒にできるNT-proANP2です。
- ANPよりも変化しにくい
- 特別な薬剤を加えなくても測定できる
- 保存していた血液を後から調べられる可能性がある
研究チームは、ヒト用のNT-proANP検査がカニクイザルにも使えるのかを調べました。
なぜカニクイザルなの?
カニクイザルは、人の病気や薬を研究するうえで重要な動物です。
今回の方法が広く使えるようになれば、過去に採取して保存していた血液を使って、あとから心臓の状態を調べられる可能性があります。
今回、明らかとしたこと
① ヒト用の検査で、カニクイザルの血液も調べられた
ヒトとカニクイザルのNT-proANPは、約96%の割合で似た構造をしていました。
実際にヒト用の検査方法を使うと、カニクイザルのNT-proANPを測定できることが確認されました。
② 心臓病のあるサルでは、NT-proANPが高かった
心臓病のあるグループでは、健康なグループよりNT-proANPの値が高くなりました。
今回の研究では、1.79 nmol/Lを目安にすると、心臓病のあるサルを見つける割合91.67%、健康なサルを健康と判断する割合83.33%でした。
③ 保存した血液でも測定できる可能性が分かった
NT-proANPは、採血後に時間がたっても測定できました。
特に、室温でも採血後6時間まで検出可能でした。ただし、時間や温度、血液の保存方法によって測定値は変化するため、できるだけ早く冷やして処理することが重要です。
将来への応用
「あとから調べられる」ことが、研究の可能性を広げます。
今回の成果によって、保存していた血液を使って、カニクイザルの心臓の状態を過去にさかのぼって調べられる可能性が生まれました。サルはヒトに非常に近縁な動物です。できるのであればその犠牲は最小限にするべきです。本研究で保存された過去の血液から検査が可能になることで、より動物に負担をかけない研究が可能になります。
将来的には、
- サルの心臓病をより見つけやすくする
- 保存血液を活用して、過去の研究を新たな視点から調べる
- 心臓病や薬の研究に役立てる
- 獣医療や野生動物の健康管理への応用につなげる
といった活用が期待されます。
ヒトに近いカニクイザルを用いた研究を、より有効に進めるための新しい手がかりとなる成果です。

- ANP: 心房性ナトリウム利尿ペプチドとも呼ばれる心臓から分泌されるホルモンで、心臓の容量負荷によって分泌されます。 ↩︎
- NT-proANP: ANPは心筋組織から分泌される前段階ではproANPというNT-proANPとANPが結合した形で存在しています。これが心臓の負荷によって分泌され、ANPとなる際にNT-proANPとANPに分離されます。NT-proANP自体にはホルモンとしての作用はありませんが、ANPに比べて長期間保存されることがわかっています。 ↩︎
- Diagnostic utility of human N-terminal proANP for cardiac disease in cynomolgus monkeys
- Shunya Nakayama, Ibuki Yoneda, Yuto Sawada, Takanobu Shimizu, Masao Akashi, Tadashi Sankai, Yasuhiro Yasutomi, Hiroshi Koie, Naohide Ageyama
- Experimental Animals
- DOI:10.1538/expanim.26-0071



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