博士課程3年(採択時)の石坂君の研究成果が動物免疫学分野の専門誌であるVeterinary immunology and immunopathology に掲載されました.
 イルカやアザラシをはじめとする海棲哺乳類は、寒冷で体温が奪われやすい水中環境に適応して生きています.しかし,このような過酷な環境において、身体の末端部や外傷箇所など局所的に低体温となる部位で免疫細胞がどのように働き,健康を維持しているのかについては,これまで明確な解明がなされていませんでした.
 この未解決課題に対して,私たちは生体防御の最前線で働く多形核白血球(PMNs)に着目し,これらの細胞が低温環境でも機能するための特殊な仕組みを持っているのではないかと考えました.しかしながら,海棲哺乳類の生体サンプルは入手経路が極めて限られており,免疫機能の実験的解析および陸棲哺乳類との比較研究を進める上で大きな障壁となっていました.
 そこで私たちは,新江ノ島水族館の協力を得ることで,バンドウイルカおよびゴマフアザラシの血液サンプルからPMNsを分離・精製することに成功し,自然免疫の中核機能である「貪食反応」の温度依存性を体系的に解析しました。その結果,イルカやアザラシのPMNsは4℃という極めて低温な環境下においても安定した貪食反応を示すことが明らかになりました。さらに,陸棲哺乳類との比較解析により,この低温下での機能維持が海棲哺乳類に独自の性質である可能性が示されました。
 本成果は,これまで「低温では成立しない」と考えられてきた哺乳類免疫応答の概念に再考を迫るものであり,海棲哺乳類における寒冷適応の新たな側面を提示するものです.現在は,この低温適応性を支える分子基盤の解明に向けて,細胞骨格動態や膜特性,細胞内シグナル伝達機構の観点から研究を進めています.

論文情報
Ishisaka S, Segawa T, Shirakata C, Katakura F, Narita T, Okabayashi K, Uehara R, Itou T. Discovery of cold-tolerant phagocytic activity in polymorphonuclear leucocytes (PMNs) of marine mammals. Vet Immunol Immunopathol. 295:111100. doi:10.1016/j.vetimm.2026.111100.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165242726000395?via%3Dihub