増田 哲也 特任教授

MASYDA, Tetsuya   研究室へ

「きっかけは恩師の言葉でした」――動物資源科学科の増田哲也特任教授は、ミルクの研究を始めたきっかけを次のように回想します。
 増田特任教授が本学の学部生だった頃のことです。授業中、騒がしい学生に向かって、恩師となる先生がこう言いました。「君たちが騒がしいのは、母乳の代わりにウシのミルクを飲んで育ったからだ」と。

「その時、家庭の事情で母乳の代わりに育児用ミルク(乳児用調製粉乳)で育てなければならない場合もある、と考えたのです。そして、ふだん私たちが飲んでいるウシのミルクをヒトのミルクに近づけたいと思うようになりました」

 ミルクの組成は、動物種ごとにそれぞれ異なります。例えば、ネコのミルクはヒトのものよりタンパク質が多く含まれています。これにより、ネコは生まれてから7日間で体重が倍になるほど成長することができます。また、クジラやアザラシのミルクは水分が少なく,ネトネトしています。海の中で授乳する際に拡散しないようにするためです。
 このように、ネコにはネコの、クジラにはクジラの、それぞれに適したミルクの組成があります。ヒトの新生児が飲む育児用ミルクも、母乳の組成に近づけられないだろうか。そう考え、増田特任教授は「ミルク」を生涯の研究テーマに選びました。

考える力をつける

 増田特任教授は恩師のもとで研究を続け、助手として本学に勤め始めます。ところが、それと時期を同じくして恩師が亡くなってしまいます。

「助手でありながら指導教授がいなくなってしまいました。学会に一人で行くこともありました。研究での苦労は苦労とも思いませんが、その時は孤独を感じ、少しつらかったですね」

 その後、乳酸菌・発酵乳製品の大家である森地敏樹教授を迎えたことで、チーズやヨーグルトに関する研究が始まります。この頃に増田教授は日本で初めてヤギ乳から販売を目的としたチーズを作ることに成功し、今でもその製法で作られた山羊乳チーズが水戸市農業公社から販売されています。こうして自分の考えたことが形になっていくことこそ、研究の一番の面白さであると話します。

「学生にも、自分で考えることの大切さを教えています。プロトコル(研究手順)を渡してその通りにやってもらえば、成果はどんどん出ます。ですが、それでは考える力は育ちません。学生たちには、将来社会に出て行くときに、自分で考えられる人になっていてほしいと思っています」
新しい培地を開発

 そうした「考える」ことを大切にする指導をしていく中で、学生から大きな発見が生まれました。乳酸菌の新しい培地を開発したのです。

 Lactobacillus gasseri などのアシドフィラスグループ乳酸菌は、乳中での生育が緩慢なため、実験室内で、生育に適した環境(合成培地)で培養してから乳に添加します。その際に用いる培地には、従来は食品用として認可されていない成分が含まれていました。それに対し、現在特許申請している培地はすべて食品用として認可された成分で構成されています。さらに材料費も従来の培地の約10分の1で済むそうです。

「これは、いわば“手抜き”によって生まれた発見でした。学生が、培地の成分を見て『この成分だけでいいのではないか』と思いついたのです。しかし、こうした“手抜き”の発想も、普段から、考えながら研究をし、培地の仕組みを良く理解していたから生まれたのです」

 多様な研究成果を上げてきた増田特任教授ですが、今後の展望についてこう語ります。

「自分もそうですが、人間は歳をとるにつれて筋力が低下してきます(サルコベニア)。そのことで高齢者が日常生活で支障をきたさないよう、動物性タンパク質をおいしく摂ってもらえるヨーグルトを開発したいと思っています。そのための一つの試みとして、昨年度、ミルクデザートという新しい乳製品を試作しました。これは、ヨーグルト用の乳酸菌で発酵させたものをチーズ用の酵素で固めるという方法で作りました。この試作品には『おいしい』という反響が多く寄せられており、現在、製品化に向けて少しずつ研究を進めているところです」

 

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