多彩な研究

獣医学は様々な動物種が対象です.動物医科学研究センターではイヌ・ネコ・家畜~魚類まで,様々な動物の体の仕組みや病気について研究しています.

イルカの胃疾患:胃疾患,それは多くのイルカが抱える病気のひとつです.しかし,その主な原因は解明されておらず,原因不明のままでは適切な治療法や予防法など分かるはずもありません.そこで私たちは,水族館と共同してこの原因追求をする研究をしています.そして重度胃疾患症状のあるイルカからピロリ菌と非常に似た特徴を持つ新種の細菌を発見し,この細菌をイルカのヘリコバクターという意味を込めてHelicobacter delphinicolaと命名しました(図).このように私たちは,水族館で飼育されている動物の衛生管理をよりよくすることで,健康を守るための研究に取り組んでいます.獣医衛生学研究室 瀬川太雄

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ウシのアキレス腱電子顕微鏡で三次元構築:ウシのアキレス腱などに代表される腱は、筋肉の収縮の力を骨に伝えています。腱を電子顕微鏡で観察すると、コラーゲンは腱の伸びる方向に整列することで筋肉に引っ張られる力に強くなっています。我々は、ウシの腱が趾の骨に対して分岐する部位でのコラーゲンの整列の仕方を調べるため、腱の分岐部を3D電子顕微鏡で3次元再構築しました。すると、腱の分岐部は複数の方向からの張力に強く、かつ柔軟性を持っていることが明らかになりました。獣医解剖学研究室 高橋直紀

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野生動物に分布するバルトネラ菌とその媒介者:バルトネラ菌(Bartonella)は,哺乳動物に感染する細菌で,ノミなどの吸血性節足動物が媒介者となっています。ペットとしてお馴染みの猫もバルトネラ菌を保有していることがあり,感染猫に引っ掻かれることで人はバルトネラ症の一種,“猫ひっかき病”に罹患します。我々の研究室では,国内の様々な野生動物からバルトネラ菌を分離し,そのゲノム性状を解析することによって,“宿主とバルトネラ菌の共進化の歴史”を紐解こうと日夜研究に取り組んでいます。また,様々な吸血性節足動物も収集し,シラミバエ(ハエの仲間)が二ホン鹿にバルトネラ菌を媒介している可能性を示すことができました(図参照)。獣医公衆衛生学研究室 佐藤真伍

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魚類の免疫機構:世界の人々の食を支えるため、魚介類の養殖産業は劇的な成長を続けています。養殖発展の妨げの一つが感染症、いわゆる魚病です。魚類はヒトと同様に、生まれながらに持つ自然免疫と、病原体を特異的に見分けて記憶し排除できる獲得免疫の両方を具えています。しかし魚類免疫機構はヒトと異なる点も多く、その理解不足が魚病ワクチン開発を阻む一因となっています。我々は、遺伝子工学的手法を駆使し、細胞を可視化させたクローンギンブナの作出に成功しました。このような実験魚をモデルとして、免疫の活性化・記憶成立のメカニズムの解明研究に取り組んでいます。魚病/比較免疫学研究室 片倉文彦

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ネコの感染症の診断・治療:猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスによる猫の病気です。FIPは一度発病すると治療が難しく、多くの猫は死亡してしまいます。写真は猫コロナウイルスが感染した細胞です。点線で囲んだ細胞は、ウイルスの「スパイク」というタンパク質により、複数の細胞が融合したものですが、その融合メカニズムには多くの謎があります。我々のグループでは、FIPを主な研究テーマとし、その診断法や治療法の開発につながる研究を行っています。獣医伝染病学研究室 小熊圭祐

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ネコの白血球型: 白血球の血液型に例えられるMHC(主要組織適合抗原)は、感染症から生体を守る免疫機構において、きわめて重要な働きをします。その人が持っているMHCの型によって、感染症にかかったときに重症化したり無症状であったりします。また、臓器移植の際に、臓器提供者と患者との間でMHC型を合わせることで、拒絶反応を抑えることができます。今回、伴侶動物であるネコにも、様々なMHC型が存在することが初めて明らかになりました。この研究成果は、ネコの獣医療分野におけるワクチン開発や、移植時の適合性検査法の確立につながることが期待されます。魚病/比較免疫学研究室 博士課程4年 岡野雅春

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人と動物の共通感染症: Bartonella属菌は様々な野生哺乳類の赤血球中に感染している細菌で、吸血性節足動物(ベクター)によって媒介される人獣共通感染症病原体です。我々は、日本の4種のコウモリにBartonella属菌が分布している事、コウモリ種によって異なる外部寄生虫がベクターとなっていることを明らかとしました。更に、次世代シーケンサーを用いた解析によりコウモリ由来Bartonellaどのように哺乳類の赤血球中で持続感染を成立させているかを推定しました。獣医公衆衛生学研究室 博士課程4年 鍋島 圭

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図はコウモリにおけるBartonella属菌の持続感染機序を示す(予想図)