演習林情報

  1. 演習林情報・水上演習林観察日誌

水上演習林観察日誌


水上演習林観察日誌31

 9月9日から10日にかけて、台風18号から変わった低気圧と台風17号の間に、南北の線上降水帯の雨雲ができ、栃木県・茨城県に記録的な大雨が降りました。大雨によって鬼怒川が氾濫し、茨城県常総市で大規模な浸水被害になりました。翌日には宮城県の渋井川が決壊し、大崎市で浸水被害がありました。演習林はこの関東・東北豪雨では被害がありませんでしたが、8月30日0時から4時までの間に180oの雨が降り、演習林入り口から山小屋までの車道に被害がありました。今回は樹木の種子散布の方法について紹介します。

種子散布

 秋は果実が実る季節です。今年はブナの果実が2011年以来の豊作になりました。ブナの堅果は栄養価が高く、動物に食料として食べられてしまいます。しかし、ブナは冷温帯で極相林を形成しますので、豊作年には動物が食べ尽くせないほどの大量の堅果(100個/u)を作ります。大豊作年では500〜1000個/uの堅果が落下します。翌年には食べ残された堅果が芽生えてきます(豊作年で20本以上/u、大豊作年で100本以上/u)。ブナ種子は大型なため、親木の樹冠下に落下します。また、ネズミ・ニホンリス・カケス等による貯蔵種子の食べ残しが芽生えてくることもあります。このように動くことができない樹木はいろいろ種子散布の方法を工夫しています。

ブナの芽生え
ブナの芽生え
貯蔵種子の芽生え
貯蔵種子の芽生え
 種子散布の方法は重力散布・風散布・動物散布・水散布に分けることができます。今回は水上演習林樹木の重力散布・風散布について紹介します。

重力散布

 大型種子が重力によって親木の近くに落下する自然散布です。ブナ・コナラ・ミズナラ・クリ・オニグルミ等が当てはまります。種子は動物に食べられてしまうので、子孫を残すためには大量の種子を生産する必要があります。

ブナ果実
ブナ果実
コナラ果実
コナラ果実
 ブナの堅果は大部分が親木から5mぐらいに落下します。強風の風下で親木から30mぐらいまで数個飛散します。

風散布

 風で種子を飛ばして貰う散布方法です。風散布には翼を利用する樹種、苞葉を利用する樹種、毛を利用する樹種、種子が小さくて風に舞う樹種に分けることができます。

翼を利用する樹種

 果実や種子の一部が翼になって、風で飛ばして貰う散布方法をする樹種です。

ウリカエデ果実
ウリカエデ果実
オニイタヤ翼果
オニイタヤ翼果
 2個の果実が合わさってプロペラ形をしたカエデ科の翼果です。オニイタヤの写真のように一つずつに離れて、回転しながら飛散します。高木になるオニイタヤでは、親木から20mぐらい飛散します。強風に乗ると100m以上飛散することもあります。
オヒョウ果実
オヒョウ果実
ハルニレ翼果
ハルニレ翼果
 種子の周りに翼があるニレ属の偏平の翼果です。ハルニレ・コブニレ・オヒョウがこのような形の種子をしています。種子は樹高の1.5〜3倍の距離に飛散します。
ヤマトアオダモ果実
ヤマトアオダモ果実
マルバアオダモ翼果と種子
マルバアオダモ翼果と種子
 トネリコ属の披針形をした翼果です。演習林にはマルバアオダモとヤマトアオダモが生育しています。翼果は樹高の2〜3倍の距離に飛散します。
シラカンバ果穂
シラカンバ果穂
ウダイカンバ果鱗と種子
ウダイカンバ果鱗と種子
 種子の両側に翼があるカバノキ属の種子です。果穂が熟すと果鱗と種子に分解して飛散します。翼の大きさはウダイカンバが一番大きく2.5o、シラカンバ2o、ミズメ0.8oの順で小さくなり、オノオレカンバは翼がありません。翼の小さいミズメの種子は40m、シラカンバは50m、ウダイカンバは200mぐらいの飛散距離があります。
ヤマハンノキ果穂
ヤマハンノキ果穂
ヤシャブシ果穂と種子
ヤシャブシ果穂と種子
 ハンノキ属の種子はカバノキ属と同じように両側に小さな翼があります。果穂は熟すと分解しないでそのまま残ります。ヤマハンノキの種子の翼は0.5o、ヤシャブシ・ヒメヤシャブシの種子の翼は1oぐらいの長さです。飛散距離は10mぐらいです。
カツラ果実
カツラ果実
カツラ種子
カツラ種子
 カツラの果実は袋果です。熟すと裂開し片方に翼のついた種子が出てきます。飛散距離は短く樹冠内に落下します。
キリ果実
キリ果実
キリ種子
キリ種子
 キリの果実は刮ハです。熟すと種子の周りに翼がある種子が出てきます。

 裸子植物の樹木は翼を持った種子が多いです。
カラマツ球果と種子
カラマツ球果と種子
モミ種鱗と種子
モミ種鱗と種子
 マツ科の樹木は片方に大きな翼を持っています。
スギ球果と種子
スギ球果と種子
アスナロ球果と種子
アスナロ球果と種子

 スギ科とヒノキ科の樹木は周りに小さな翼を持った種子が多いです。


苞葉を利用する樹種

 苞葉又は苞葉が変化したもので、風で飛ばして貰う散布方法をする樹種です。

シナノキ果実
シナノキ果実
オオバボダイジュ果実と種子
オオバボダイジュ果実と種子
 シナノキ属は花序の柄にある苞葉で風散布されます。飛散距離は10〜20mぐらいです。
アカシデ果穂
アカシデ果穂
クマシデ果穂と果苞
クマシデ果穂と果苞
 クマシデ属・アサダ属の果実は苞葉が大きくなった果苞が集まって果穂になっています。果苞の基部に種子を包み込んでいます。果穂は果苞に分解して、果苞が回転しながら飛散します。しかし風散布のほかに重力散布や鳥による動物散布も行われます。
ツクバネ若い果実 
ツクバネ若い果実 
サワグルミ果穂と種子
サワグルミ果穂と種子

 ツクバネは4枚の苞葉が残り風散布されます。サワグルミは苞葉が翼状になって種子の両側につき風散布されます。


毛を利用する樹種

 種子に毛を作って、風で飛ばして貰う散布方法をする樹種です。

イヌコリヤナギ裂開始めた果実
イヌコリヤナギ裂開始めた果実
オノエヤナギ柳絮
オノエヤナギ柳絮

 ヤナギ科の果実が熟すと白い綿毛を持った種子(柳絮)が出てきます。種子は風に乗って広範囲に飛散します。

種子が小さくて風に舞う樹種

 翼や毛を持っていなくても種子が小さいと風に舞って遠くまで飛散します。

エゾアジサイ果実
エゾアジサイ果実
ノリウツギ刮ハと種子
ノリウツギ刮ハと種子
 アジサイ属の果実は刮ハです。熟すと裂開し小さな種子が出てきます。種子には両側に翼があります。
ヤマツツジ果実
ヤマツツジ果実
リョウブ刮ハと種子
リョウブ刮ハと種子
 スノキ属を除いたツツジ科とリョウブ科の樹木も刮ハで、熟すと裂開して小さな種子が出てきます。レンゲツツジ・シャクナゲ・サラサドウダン等一部の樹木には翼があります。

(2015年11月)