演習林情報

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水上演習林観察日誌


水上演習林観察日誌27

 台風が10月に2回も上陸し、被害が出たところがありました。今回は人工林保育作業の一つの枝打ちを紹介します。

杉の枝打ち

 秋季の重要な杉保育作業の一つとして枝打ちを挙げることができます。枝打ちとは良い木をつくるため、枯れ枝並びに生き枝を切り落とす作業を言います。

目的と効果

 枝打ちの主な目的と効果について挙げます。
1.年輪幅の狭い通直で真円な木を作る
 生き枝を切り落とすことによって成長が抑えられ、6o以下の年輪幅の狭い木材に仕立てることができます。

2.節のない木を作る
枝が切り落とされると、傷口は幹の肥大成長と癒傷組織によって包まれていき、節のない木材ができ上がります。傷口を巻き込むまでの年数は切り落とす枝の太さより残った枝の長さ(残枝長)に左右されますので、残枝長を0.7p以下に抑えることが重要です。10.5p角の四方無節の柱を生産するためには幹の直径が6pまでに枝打ちを済ませておく必要があります。

3.完満度の高い木を作る
 葉で作られたデンプンは糖分に変えられ、根に向かって運ばれていきます。枝打ちをすることによって葉量が少なくなり、糖分が十分に行き渡らなくなってきます。残枝高付近の成長が最も太くなり、根元に向かって成長はだんだんと小さくなってきます。そこで、末口と元口の直径差が小さくなってきます。

4.均一な個体を作る
 植栽してから個々の成長が違ってきますので、幹の太さや樹高にバラツキが出てきます。枝打ち作業能率として、枝下高をそろえる作業は行いやすいのですが、枝下高をそろえる枝打ちを行うと、大きな木は残った樹冠長が長く、小さな木は残った樹冠長が短いので、更に幹の太さや樹高の差が大きくなってきます。そこで、残す樹冠長を同じにすれば、大きな木は成長を抑えられ、小さな木は大きく成長し、幹の太さや樹高が均一な木になってきます。

5.保育作業が行いやすい林になる
 見通しが良くなり、除伐・間伐の作業が行いやすくなります。

6.地力を維持する
 光が林床に届くようになるので、落葉の分解が速くなり、地力の維持を図ることができます。

7.森林保全に役立つ
 光が林床に届き林床植物が生育し、土砂の流失を防ぎます。

8.病虫害の発生を予防できる
 枯れ枝がなくなり林内が明るくなるので、病虫害の発生を抑えることができます。

作業時期

 樹皮がはがれると変色の原因になりますので、成長休止期の10月から3月に行います。ただし、厳冬期は作業能率が落ちるので避けます。水上演習林では10月から12月中旬までが作業適期と言えます。

枝打ち刃物

 枝打ちを行う刃物は手持ち刃物とエンジンによる機械に大別できます。

手持ち刃物

 人の手で扱う刃物はナタ・オノ・カマとノコギリに分けることができます。ナタ類の方が切り口は滑らかで、残枝長を短くすることができるので、早く巻き込みます。しかし、ナタとノコギリで巻き込み年数に違いがなかったという報告もあります。ナタの使用は幹を傷つけ、変色してボタン材になりやすいので熟練を要します。

機械

 エンジン付きの機械には自動枝打ちロボットと枝打ち機があります。自動枝打ちロボットは1980年ごろから発売され、改良が進んできています。枝打ち機は背負い式刈り払い機を改良した背負い枝打ち機とチェンソーを改良した背負い式枝払い機があります。水上演習林では刃先がチップソーの背負い枝打ち機を使用しています。

背負い枝打ち機   
背負い枝打ち機   
刃先
刃先

木登り

 木登りの道具としてぶり縄・梯子・木登り器などがあります。 ぶり縄は約40pの二本の棒と二本の棒をつないだ十数mのロープからできています。ぶり縄を使って登る方法は、檜皮(ひわだ)を採取するために考案された伝統的な木登り手法です。水上演習林では海老原技手指導の下、体験を行っています。

ぶり縄
ぶり縄
ぶり縄体験
ぶり縄体験

 梯子は一般的に広く使われている道具です。梯子には二本梯子と一本梯子があります。水上演習林では一本梯子を使用しています。3本(5.7m)まで接続することができ、7mぐらいまで作業ができます。枝下高をそろえる枝打ちを行う場合には便利です。

一本梯子
一本梯子
2本継ぎ一本梯子
2本継ぎ一本梯子

 木登り器として水上演習林では河野式登降機を使っています。50pから6〜7pの太さまで登ることができます。

安全ベルトとセットで使用
安全ベルトとセットで使用
背負い枝打ち機と併用で作業
背負い枝打ち機と併用で作業

枝打ち作業

 枝打ちの方法は節が早く巻き込むように残枝長をできるだけ短くすることが基本です。ただし、枝の付け根の膨らみ(枝隆しりゅう)は幹の一部と考え残します。枝隆のあるなしで枝打ち方法を写真で説明します。

枝隆がない枝
枝隆がない枝
枝割れを防ぐため付け根の手前で除去
枝割れを防ぐため付け根の手前で除去
残枝長を短く幹に沿って切り直し
残枝長を短く幹に沿って切り直し
正面から見たところ
正面から見たところ
枝隆がある枝  
枝隆がある枝  
枝割れを防ぐため枝隆の手前で除去
枝割れを防ぐため枝隆の手前で除去
枝隆を残して切り直し  
枝隆を残して切り直し  
正面から見たところ
正面から見たところ

 最後に枝打ち作業の前と後の写真を比較してみてください。

枝打ち前
枝打ち前
枝打ち後
枝打ち後
枝打ち前
枝打ち前
枝打ち後
枝打ち後

(2014年11月)