今年の夏は猛暑が続き、植物の生長に影響が出て、野菜の値段が高騰しています。10月に入り実りの秋ですが、森の代表といえるドングリが実を付けていません。動物への影響が心配です。
ブナ・コナラ・ミズナラの実が不作のため、動物特にニホンツキノワグマが食べものを求めて人里に出没し、出没や被害が連日報道されています。今回はニホンツキノワグマを紹介します。
クマ科の動物は世界にホッキョクグマ・ヒグマ・アメリカクロクマ・ツキノワグマ・ナマケグマ・マレーグマ・メガネグマ・ジャイアントパンダの8種が生息しています。ツキノワグマは別名アジアクロクマとも言い、一般的に全身黒色で、胸に白い月ノ輪があります。アジア大陸に東は日本から西はイラン、北はロシアから南はタイまで7亜種が生息しています。日本に生息するツキノワグマをニホンツキノワグマと言い、大陸産のツキノワグマより小さいことなどが特徴です。日本には北海道にヒグマ、本州と四国にニホンツキノワグマが生息していると言われていますが、四国のニホンツキノワグマは絶滅の恐れがあります。
ニホンツキノワグマの大きさは体長120〜145p、体重70〜120sで、手・足を除いた体格は大人の男性の大きさです。寿命は飼育下で最大30歳の記録があります。
冬の食糧不足に備えて、秋(9〜11月)たくさん食べて脂肪を蓄え、12月〜3月の間冬眠して過ごします。
![]() ニホンツキノワグマ |
![]() 足跡 |
植物を中心とした雑食性です。動物質はアリやハチなどの昆虫を主に食べます。
![]() アメイロケアリの食害跡 |
![]() 巣の拡大 |
![]() クロスズメバチの食害跡 |
クロスズメバチは一般にヘボやジバチと言われている蜂で、長野県では食用として採取します。採取の方法がテレビで放映されることがありますので、ご覧になった方もいるのではないでしょうか。
植物は芽吹いた柔らかい若葉や樹木の果実を食べます。若葉はシシウドなどの草の芽吹いたものやブナの芽吹いた若葉など、樹木の果実は春の桜から秋のどんぐりまで色々な実を食べます。演習林でよく食べられている樹木の果実はオオヤマザクラ・カスミザクラ・モミジイチゴ・クマイチゴ・ウワミズザクラ・ミズキ・オニグルミ・アオハダ・タカノツメ・クリ・コナラ・ミズナラ・ブナなどを挙げることができます。
樹木の枝を折り取って果実を食べた跡をクマ棚と言います。折られた枝で大きな鳥の巣状になったものを特に円座と言います。クマ棚は折られた枝の葉が落ちないで残っているので冬はよく目立ちます。
![]() オオヤマザクラ |
![]() オニグルミ |
![]() クリ採食中 |
![]() クリ糞 |
![]() ブナ 冬 |
![]() コナラ 冬 |
樹木の果実を食べるため、鋭い爪で幹を挟み上手に木に登ります。降りる時はお尻を下に滑るように降りてきます。そのため、登った時の爪痕は点に、降りた時の爪痕は線になります。
![]() ウワミズザクラ |
![]() ブナ |
春先、人工林のスギ・ヒノキの樹皮を剥いで、形成層をかじったり、樹液をなめたりした後をクマ剥ぎと言います。食物として摂取するなど言われていますがよく分かっていません。写真のように樹皮を剥がされた樹木は木材としての価値が下がり、最悪の場合枯死してしまうので、林業家にとって大きな問題です。
クマ剥ぎは人工林の樹種に多く発生しますが、広葉樹でも見られます。水上演習林ではホオノキの被害が目立ちます。
![]() ヒノキ |
![]() ホオノキ |
人的被害が発生する原因として、森林の食糧不足(結実の豊凶・温暖化による植生の変化・ナラ枯れ病など)、人里との緩衝地帯だった里山の荒廃や狩猟者減少による人を恐れない新しい世代のクマの出現などを挙げることができます。現在は被害後の対策(駆除・パトロールなど)が主なので、根本的な対策(森林や里山の整備など)が行われるのが重要だと思います。
被害に遭わないためにはクマに先に気づいてもらうことです。鈴を付けて音を出すことやたくさんの人と歩くことを心がけましょう。また、新しいクマの糞・クマ棚など周りをよく観察することも重要です。
2003年度日本大学大学院生物資源科学研究科生物資源生産科学専攻博士前期課程遠藤耕一郎氏の修士論文「群馬県水上町における放獣ツキノワグマの24時間テレメトリー追跡による行動圏と移動性」がありますので参考にしてください。
ツキノワグマは森林生態系を代表する動物であり,個体群の絶滅が危惧される地域が存在する一方で,農林産物や人身に対する被害を引き起こす場合もある。被害防止・保護管理には,地域ごとに生態を把握することが不可欠である。
本研究では,特に一日の行動圏に着目し,これが月間・年間でどのように変化するかを追跡し,水上町におけるツキノワグマの一年を通した生活パターンを明らかにすることを目的とした。
群馬県利根郡水上町において,2001年夏季に水上町役場によってカプサイシンスプレーによる奥山学習放獣が行われた後,翌2002年春までには捕獲地点付近への回帰が確認された個体no. 1(♂),no. 2(♀)と,同町の日本大学演習林内にて2002年夏に捕獲し,学習・移動なしの放獣を行ったno. 4(♀),no. 5(♀)の4頭を調査対象とした。
各個体の調査期間中の行動圏面積は,no. 1が約630ha,no. 2が約490ha,no. 4が約290ha,no. 5が約290haで,利用地域はno. 1,no. 4,no. 5は演習林を含む粟沢地区周辺,no. 2は演習林の北東約5kmに位置する明川・須田貝・大沢地区周辺であった。
調査の初回から最後まで通して追跡可能であった個体は,no. 1のみで,この個体では24時間の行動圏は5〜6月に最大(平均約50ha)となるが,月間の行動圏は10月に最大(約400ha)となった。
03時台〜09時台を朝,09時台〜15時台を昼,15時台〜21時台を夕方,21時台〜03時台を夜と区分すると,24時間の移動距離の調査期間の総計は,no. 3以外の3個体において,夕方に大きく,夜に小さくなり,朝になると再び大きくなる傾向が見られた。通年で調査したno. 1では,この傾向は特に5〜6月に強く現れ,7月では弱くなる傾向が見られた。また7月末以降に調査したno. 4では,9〜11月には夜,特に21〜00時台に移動距離が小さくなり,夕方か朝のどちらかに大きくなる傾向が見られた。
8月以後に追跡したno. 4の行動圏は,個体no. 1の行動圏に重複し,10月以後に追跡したno. 5の行動圏の重複がこれに加わった。このことから,これらの個体間ではこの期間内に,なわばりは生じていないと考えられた。
5〜6月は交尾期に当たり,この期間個体no. 1はある程度のなわばりを持ち,なわばり内に侵入した他の雄を排除し,雌と遭遇する頻度を高めるため,1日で広範囲の移動をしたと考えられた。
時間帯ごとの移動距離の観察から,通年的には薄暮黎明の移動性が示唆された。しかし餌が少なくなる7〜8月にはこの傾向は弱まり,餌が豊富になる9〜11月には再び薄暮黎明の移動性が認められるようになった。以上から,基本的な薄暮黎明の行動性に,摂食活動の要素が加わった結果,季節的に移動性の時間帯が変化する可能性が考えられた。
10月23〜25日、日本大学生物資源科学部学部祭藤桜祭が開催され、23・24日参加してきました。今回は樹木の枝や木材で作った笛に各自で目・鼻・手を付けて頂きました。
![]() 制作中 |
![]() お父さんが手助け |
![]() 工作前 |
![]() 工作後 |
11月5日〜7日に石垣逸朗先生が11月16日の定年を前に卒論・修論指導で水上演習林に見えられました。石垣研究室の卒業生である私にとって、先生との35年の歳月が思い返され至福の3日間でした。別れ際、先生がありがとうと言って手を握ってくれました。先生の手の大きさと温かさに感激して胸が詰まってしまいました。石垣先生長い間ご指導ありがとうございました。
![]() 阿部先生に代わって指導 |
![]() 土壌断面 |
![]() 石垣先生 |
![]() 2007年石垣先生と阿部先生 |
(2010年11月)