環境適応生物を活用する環境修復技術の開発 日本大学21世紀COEプログラム
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研究内容
酸性硫酸塩土壌に生息する微生物
<微生物群集構造の解析、硫黄酸化菌ならびに硝化細菌の分離、新規分類指標の検討>
徳山 龍明、高橋 令二、佐藤 一朗
 生物の中でも比較的単純な構造から成り立つ微生物は、地球上至るところに生息し、環境ごとに多種多様な分布を示しています。そこでは複雑な生態系をつくりあげ、様々な元素や化合物の変換にかかわり、地球上の大きな物質循環の一端を担う重要な役割を果たしています。
 酸性硫酸塩土壌は、硫酸をその要因とする強酸性であること、およびそれに伴い金属や重金属が溶け出していることなどから、一般的に生物が普通に生活できる環境とは大きく異なった特殊な環境です。したがって、そこに生息している微生物も他とは異なった様相を呈していることが予想されます。我々のグループは、まずどのような種類の微生物がいるか、どの種類の微生物が多いかを調べるために群集構造解析をおこない、純粋分離を試み、得られた菌株を分類するための新しい方法を検討しました。
 群集構造解析:微生物を培養することなく(言い換えれば培養することのできない微生物をも)DNAのレベルで検出する手法は、リボソームに含まれる16S rRNAという分子の遺伝子(16S rDNA)を標的に、PCR法で増幅して塩基配列を解析することにより、どのような微生物がそこにいるのかを調べます。16S rRNAはすべての原核生物に存在し、現在までに膨大な情報がデータベース上に蓄積されているため、得られた結果から解析対象の微生物を分類するのに有効な指標となっています。
 本プログラムにおける海外研究拠点周辺で得られた酸性硫酸塩土壌のうち、未処理の酸性土壌とカルシウムを散布してpHを上昇させるLimingと呼ばれる土壌改良を施したものとの間で、存在する微生物の分布状況と種類について比較しました。
図1
 その結果Acidobacteriaという属に分類されるものが未処理区で35%、Limingによる土壌改良区で27% 程度を占め、酸性硫酸塩土壌環境で最も数的に多く生息しているグループであると予測されました(図1)


  さらにこのAcidobacteriaに関する詳細な解析を行ったところ、今までに分類されている8つのグループに属さない、今回対象とした地域の酸性硫酸塩土壌にのみ生育しているグループかもしれないものが見いだされ(図2)、これを我々はAcid sulfate soil-cluster (ASS-cluster) と命名しました。
図2
 また、今回解析した中で、窒素循環のうち、特に窒素固定や硝化に関わる既知の微生物と非常に類似したものが検出されており、これらは酸性硫酸塩土壌環境中の生物的な窒素循環に関っている細菌種と考えられました。
 硫黄酸化菌・アンモニア酸化菌の純粋分離:酸性硫酸塩土壌環境において、その成り立ちに大きく影響する元素は硫黄です。その硫黄にかかわる微生物である硫黄酸化菌と、植物の窒素源の供給に関して重要な役割を担っている硝化細菌(アンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌)(図3,4)について、前述の群集構造解析からその存在が確認されたので、実際に分離を試みました。これらの細菌は地球環境において元素循環に関与し、二酸化炭素を炭素源とし、無機物の酸化によりエネルギーを得ている化学合成独立栄養細菌の仲間です。酸性硫酸塩土壌からこれらの微生物を実際に分離し、生理・生態を調べたり、その利用法を開発することが、植物が育つことのできなかった劣悪な環境を修復して、作物栽培を行うための足がかりになるのです。
図3
図4
 このような独立栄養細菌である硫黄酸化菌や硝化細菌は生育が緩慢なため、自然環境中から分離するのは難しいのですが、我々は独自に開発した方法で、様々な環境からこれらの細菌を多数分離してきました。硫黄酸化菌については、箱根大涌谷の酸性硫酸塩土壌からは28菌株の純粋分離に成功しました。純粋分離菌の1つであるORCS6株は桿菌で、16S rDNA 解析からAcidithiobacillus 属であると推定されました(図5)。また、タイのインゲン根面および栽培土壌(酸性およびLiming土壌)からは19菌株の純粋分離菌が得られ、形態観察を行った4菌株はいずれも短桿菌でした(図6)
図5
図6
 アンモニア酸化菌については、ネムノキを栽培したタイの未処理の酸性硫酸塩土壌(pH3.0)、その根面、Limingしたうえでネムノキを栽培した土壌(pH4.5)、およびその根面から5株の純粋分離に成功しました。形態観察の結果、分離菌株はいずれもlobate type(裂片型)であり、すべてNitrosolobus属であると判断されました。Liming 土壌のネムノキ根面から分離された菌株は、炭酸カルシウムを添加した場合に良好な生育を示し、分離源を反映した結果が得られました。
 アンモニア酸化菌の新しい分類指標の検討:このようにして得られた分離菌をさらに詳細に分類することは、様々な環境中に「棲み分けている」微生物の遺伝的背景や機能の進化などについて重要な情報を得る糸口になるのです。
現在、アンモニア酸化菌は16S rDNA塩基配列に基づいた分子系統分類において、NitrosomonasNitrosococcus及びNitrosospiraの三属に分類されています。しかし、従来は主に形態(表現型)の特徴(図7)から、Nitrosospira (spiral)はさらに'Nitrosolobus' (lobate)と 'Nitrosovibrio' (slender curved rods) を区別して5属に分類されていましたが、現在もなおこれらの形態の相違に関する遺伝的な側面や、遺伝子レベルでの解明はまだおこなわれていません。我々は本研究で、アンモニア酸化菌における16S rDNA以外の遺伝子として、多くの生物種、組織や細胞中に共通して発現する遺伝子で、細胞の維持、増殖に不可欠な遺伝子であるハウスキーピング遺伝子を用いてこれら3属を分類することが可能かを検討しました。広い生物種に普遍的に存在し、代謝系の基本である解糖系および炭酸固定系関連の酵素遺伝子群に着目し、我々のグループがすでに各種環境から分離した、アンモニア酸化菌由来のグリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素遺伝子(gap)、ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(pgk)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(pyk)の完全長塩基配列をPCRクローニングにより決定しました。各遺伝子に基づく系統樹は近隣結合法を用いて構築し、16S rDNAに基づく系統樹と比較しました。その結果、16S rDNAに基づく系統樹では識別困難であった、3属の各クラスターはgappgkpyk遺伝子に基づく全ての系統樹において容易に識別が可能でした。
 そこで酸性硫酸塩土壌、およびそこに生育するネムノキ根面から単離されたlobate状のアンモニア酸化菌を分類したところ、pyk遺伝子による系統分類によって最も明確な識別が可能であり、'Nitrosolobus'属菌として同定することができました(図7)。この研究成果により、形態の相違を反映したアンモニア酸化菌の分類が、分子系統分類によっても可能になりました。
図7
 なお、この研究は、大学院生 井田武史君、矢部隆一君をはじめ、農芸化学科微生物学研究室の学生諸君の多大な協力のもとにおこなわれています。
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