本文書は,自動撮影カメラ(カメラトラップ)を用いた地上性動物の密度推定の方法をまとめたものである.密度推定の前提となるランダムカメラ調査の要件を定義したうえで,とくにREST法(Nakashima et al. 2018)による密度推定を行うための調査プロトコルを提供する.本文書は1ヶ月に1回程度更新予定だが,最新情報は研究室のTwitterで随時公開する.誤りや新しい情報があれば,公開の可否も含めてメール(yosshi1215jp@gmail.com,@を半角文字に修正)を頂ければ幸いである.
なお,本文書の作成に当たって,以下の方に貴重な情報を頂いた. 安藤正規(岐阜大),飯島勇人(森林総研),神田有香(日大),高木俊(兵庫県立大),橋詰茜(日大),林耕太(山梨県森林総合研究所),深澤圭太(国環研),本郷峻(京都大),北村俊平(石川県立大),矢島豪太(日大)(以上,五十音順).文責は,すべて中島にある(書いたまま読み返してないので,誤字脱字多数.文章も読みにくい).本郷峻氏作成の英語版は,こちらから入手可能である.
ランダムカメラ調査とは,以下の要件が全て満たされたものとする.
調査対象エリアと調査可能エリアの設定が明確であること
調査対象エリアとは,生息密度の推定を行いたい関心対象エリアすべてを指すのに対し,調査可能エリアとは,調査対象エリアのうち,現実的にカメラの設置作業が可能な範囲を指す.理想的には調査対象エリア全体からランダムサンプリングを行うべきであるが,効率性や安全性を考えると,その一部のエリアにしかカメラを設置できないことがほとんどである.この場合,次善の策として,事前に調査可能エリアを定義し,その中からランダムサンプリングを行うべきである.例えば,道路からの距離が500m以上の場所はあらかじめ調査可能エリアとしては認めず,それよりも近い場所のみにカメラを設置する.得られるデータは,欠損値を持つが,いわゆるMARなので事後的に対処可能である.なお,調査可能エリアの定義は,GISなどを用いて事前に行うべきである.例えば,現地でしかわからない小径からの距離で調査可能エリアを定義されてしまうと,どの範囲からランダムに選択された場所であるかが分からない.
動物の分布に対してカメラの分布がランダムであること
カメラは,調査可能エリアの中からランダムに選択された地点に設置しなければならない.「ランダム」であるとは,この場合,「動物の分布や生息地利用に対して偏りがあってはいけない」ということである.すなわち,動物の利用頻度を上げるために,動物が好んで利用する場所(例えば,結実木周辺や獣道)に設置したり,誘引剤を用いたりしてはならない.この条件が満たされる限り,カメラは完全にランダム設置されていても,あるいは体系的に(例えば等間隔で)設置されていても,どちらでも構わない.また,カメラ間の距離はある程度離した方が効率的なサンプリングになるだろうが,カメラの設置点の座標情報が取得されている限り,カメラ間の距離に関しては特に制約はない(下の図参照).
さまざまなカメラ配置.
カメラの機種が十分に信頼できるものであること
利用するカメラの機種は,いくつかの条件を満たしている必要がある.まず,カメラのセンサー感度が十分に高くなくてはならない.また,センサーが動物を感知してから,撮影開始されるまでの時間ラグが十分に小さくなければならない.さらに,動画撮影が可能であるか,十分短い時間間隔での連続的な静止画像の取得が可能でなければならない.動画撮影が可能であっても,撮影インターバル(1度撮影が終了した後,再び撮影が可能になるまでの時間間隔)を十分短い時間(例えば1秒)に設定できる必要がある.
カメラの設定がふさわしいものであること
カメラの設定は,動画もしくは連続静止画を取得するモードで,撮影インターバルを最小に設定する必要がある.また,動物の活動時間割合を算出したり,調査期間を決定したりするうえで,日時が正しく記録されていることも重要である.
撮影有効範囲が利用機種にふさわしい形で定義されており映像からその範囲を特定できること
設置時に,カメラがモニターする範囲(撮影有効範囲)とその面積を決定し,かつ,カメラの映像から,その範囲を事後的に特定できるようにしておく必要がある.密度推定をする際,撮影有効範囲を通過した動物の撮影確率が1に近くなる必要がある.利用するカメラ機種の性能によって,どこを撮影有効範囲とするのかを柔軟に決める必要がある.また,カメラの性能が十分に信頼に足るものであったとしても,設置方法によっては,十分なパフォーマンスが得られないことにも注意が必要である.
カメラの撮影範囲が動物の行動を変えない程度の改変ですんでいること
センサーの誤検知を防ぐために,撮影有効範囲内の障害物(例えば木本実生や草本)を取り除く必要が生じることがある.しかし,「カメラの空間配置に関する要件」に書いたように,カメラの空間配置は動物の行動に対してランダムである必要がある.大規模な環境改変は,この条件を満たせなくする可能性がある.とくに下層植生の密度が著しく高い場合には,撮影の確実性と行動に与える影響の配慮がトレードオフになることもある.両者をある程度満たせるように,最小限の改変にとどめる必要がある.
RESTによる密度推定を行うためには,カメラの機種を慎重に選択する必要がある.自動撮影カメラの性能はピンキリであり,日本で広く普及しているカメラが必ずしも性能が良いわけではない.とくに一部のカメラでは,RESTに用いるうえでは,致命的ともいえる欠陥を抱えているものもあり,事前にカメラの特徴を十分に調べた方が良い.
世界あるいは日本で広く使われているカメラとして,以下のようなものがある.
ID | ブランド名 | 代表的な商品名 |
---|---|---|
1 | Browning | Browning Strike Force HD Pro X |
2 | Bushnell | Bushnell Core S-4K No Glow |
3 | Reconyx | Reconyx Hyperfire 2 |
4 | Zhuhai | Ltl-Acorn 6210WMC PLUS |
5 | HykeCam | HykeCam SP2 |
これらのうち,Reconyx社製のものは,海外の研究者によって広く用いられている高性能なカメラであるが,他と比べて原価が約2倍であり,十分な台数をそろえるのは困難である.私(中島)が使った経験もほとんどないため,以下ではこれ以外の機種について紹介することにする.
Browning Strike Force HD Pro X
総合的に考えて,現時点(2022年4月時点)で最も「使える」カメラは, Browning社製のBrowning Strike Force HD Pro X(TrailCamProで159.95ドル)だろう.この機種は,カメラにモニターが内蔵されており,どの範囲を撮影しているかをリアルタイムで確認することができる.RESTの適用には,有効範囲全体が撮影されていることが必須である.また,有効範囲内を通過した動物の検出確率を最大化するためには,有効範囲が画角の中央に位置していることが望ましい.モニターのないカメラの場合,どの範囲を撮影しているかを判断するのが容易ではなく,期待したような映像を得るためには,相当の設置経験が必要である(初めて設置する人は,なぜかカメラを上方向に向けてしまうことが多く,空ばかりを撮る傾向がある).また,このカメラは,金属製のヒンジと一体となっており,カメラの角度を設置した後に変更できる.この点も,有効範囲を完全に撮影するうえで非常に便利である.
一方で,この機種にも幾つかの短所がある.まず,液晶モニターが壊れやすい.他の部分が壊れていないにもかかわらず,液晶だけが使えない(従って,カメラの設定も出来ない)こともある.ただし,他の機種と比べ,この機種の耐久性が低いというわけではない(カメラ寿命 参照).
この機種の2つ目の弱点は,時計専用のボタン電池を使用していることにある.従来の多くの自動撮影カメラは,時刻を表示する電源を,カメラ本体と同じ乾電池に依存していた.そのため,乾電池を取り除くと時刻の設定は保持されず,初期状態に戻っていた(カメラで取得した画像の日時情報が狂っていることが多いのは,カメラの持ち運びなどで生じた電池のずれでも初期化されたためである).この機種は,そうした問題を避けるために,時計機能専用のボタン電池を搭載し,乾電池を外しても日時情報が保持されるようになっている.これ自体は非常にありがたいことなのだが,別の問題を引き起こしている可能性がある.故障したカメラを分解すると,多くの場合,ボタン電池周辺が目立って腐食しており(下の図参照),その腐食が周辺の電気回路を断絶させているように見える.そのメカニズムは現時点では明らかではないが,ボタン電池の採用がカメラの寿命を短くしていることはほぼ間違いない.場合によっては電池を設置前に取り除いてしまった方がいいかもしれない.実際,電池を取り除いても,本体の機能には何らの問題がないことは確認済みである(ただし,私たちは,日時情報を確実に取得することを優先しているため,壊れるリスクを承知でそのまま利用している).黄色の破線で囲った部分がとくに錆びやすい
3つ目は,センサーが反応する水平方向の角度が,画像として記録される角度(約44°)よりも小さく設定されていることである.これは,赤外線センサー自体の検出角度が狭いためではなく,わざわざ検出角度が狭くなるような構造を持たせているためである.下の図に示したように,プラスティックの構造体があることで,動物が画角の中央部分に来た時に初めてセンサーが反応するようになっている.おそらく,これは,動物の姿を美しく撮影するための工夫だろう.最近のカメラは,センサーが感知してから撮影を始めるまでのタイムラグが非常に短くなっており,検出角度を限定しないと,(とくに静止画の場合)端っこにいる動物ばかりが撮影されることになる.センサー感知範囲を限定することで,動物の中央に来たタイミングで撮影されるチャンスを上げることができる.
この工夫は研究目的で利用するうえでは(とくに滞在時間を計測するうえでは,動物が有効範囲に入る前に撮影が開始されてほしい)全く不要なものである.2018年頃に販売されていた機種では,センサー角度を限定する素材が取り外し可能になった時期があった.しかし,最近のものは本体と一体化してしまっており,この制約を解除するためには,本体のプラスティックを切り取る(あるいは削り取る)しかない.私たちは,やむを得ず,カッターナイフで余計な部分を切断し,無理やりセンサー角度を50°にしている.もちろん,どのような購入ルートであったとしても,このような処理をした瞬間,保証が効かなくなる.それでもよいのなら,以下の図を参考にして,必要な改造を行ってほしい.なお,この処理に失敗したとしても私は一切の責任はとれない.また,特定の場所を狙って撮影する場合(例えば,カメラの前に果実を置いてどんな動物が食べるのかを撮影する場合),このような処理を行う必要はない.
センサー感知角度を広げるための改造.自己責任で行ってほしい.
4つ目の短所として,動画の画質がかなり荒いにもかかわらず,動画容量が非常に大きいことが挙げられる.参考に,以下にBrowning Strike Force HD Proで撮影した動画(上, 20秒,61.5MB)とBushnell Aggressor Brownで撮影した動画(下,30秒,8.8MB)を示す.明らかに後者の方が細部まで観察が可能だろう.単位時間当たりのファイルサイズは,Browningの方がBushnellよりも約10倍もファイルサイズが重いにもかかわらず,見た目が汚いのである(Bushnellの最新のカメラは,4K画質も撮影可能である).
5つ目の短所は,カメラと一体となっているヒンジの部分にある.長期間野外で使用していると,錆びてきて,ねじが馬鹿になってしまう.こうなると,カメラの設置が非常に難しい.私たちは,錆落としを使って定期的にメンテナンスしている.この点も含め,詳細なメンテナンス方法は,担当の院生(神田有音)にマニュアル化してもらう予定である.作成され次第,ここにアップする.
Bushnell Core S-4K No Glow
Browning社製のカメラと並んで勧められるのは,Bushnell社製のカメラである(と思っていたが,2022/5/20現在,CORE™
DS-4Kには不具合が生じているらしい.ファームウェアの問題のようなので,アップデートされる可能性があるが,現時点でこの機種を新規購入するのは危険かもしれない).性能は,Browning社製とほぼ等価である.先ほど述べた通り,動画の画質はBrowning社製のものよりも良く,しかもファイルサイズが小さいという長所がある.
Bushnell社製カメラの短所は,液晶画面が搭載されていないことである.そのため,どの範囲を撮影しているのかは設置者の勘に依存する.おそらく近々,Bushnell社も液晶を搭載するはずである.というのも,カメラの外部ケースがある段階で大幅に変更され,Browning社製の仕様とそっくりの(液晶画面を搭載しやすい)設計になったからである.しかし残念ながら,それがいつになるのかは未定である.と思っていたら,現行のCORE™
DS-4Kでは,搭載されていた.
Bushnellのカメラのもう一つの問題は,モデルチェンジが頻繁に起こるため,しばらくたつと同じ機種が購入できなくなるという点である.しかも,機種ごとにかなり性能が違っており,必ずしも後継機の性能が良いわけではない.正規代理店から購入すると,ファームウェアの更新のためのSDカードが送られてきたりすることもあるが,何が変わっているのか利用者側には全く分からない.また,モデルチェンジの際には,カメラの内部だけではなく,プラスティックの外部ケースの形も大幅に変えることもある(一見似ていても,必要な電池の本数を変えることもある).壊れたパーツを組み合わせて利用しようとしても,うまくいかなくなる原因にもなるため,私たちからすると,この点も困った特徴である.
Browning社製のカメラで指摘した「センサー角度問題」は,おそらくBushnell社製カメラも同様に抱えている.センサー角度がどの程度なのか,改造によって改善することは可能なのかについては未検証である.残念ながら,センサー検知角度がかなり狭いようである.昔のモデルは私も愛用していたが,現行モデルはRESTには向かないかもしれない(2022/5/21追記).
Ltl-Acorn 6210WMC PLUS
Ltl Acornシリーズは,かつて自社製の自動撮影カメラを販売していた麻里府商事 が取り扱っていることもあり,日本人研究者の間で広く使われているようである(欧米の研究者がこの会社のカメラを使っているのは聞いたことがない).
広角の撮影が可能なモデル(Ltl-Acorn 6310WMC)について確認した限り,少なくともRESTには使えない.センサー角度は公称画角100度であり,Browning社製やBushnell社製のカメラと比べて約2倍と広いが,センサーの検出感度が著しく悪い.犬を用いた実験では,カメラのごく近くをゆっくり歩かせているのに半分は撮り逃した(詳細は,Yajima and Nakashima 2021.なお,この論文では示していないが,改造済みBrowningの場合,同一条件での検出率は100%だった).これだけ性能が低いと,他の用途に使うのも難しいはずである.
また,このカメラは,電池パックと液晶モニターがカメラの下部にある.カメラの撮影範囲を確かめようとして蓋を開けると,電池パックがズドーンと落ちてくる.さらに,カメラを高めの場所にして撮り下ろそうとすると,電池バックと液晶モニターの部分が樹にぶつかって開けられなくなる.申し訳ないが,商品としての完成度が著しく低い.昔のフィルム時代の麻里府オリジナルのセンサーカメラは,感度も高くトリガースピードも速い優れモノだったので,このような商品が販売されていることが残念でならない(このカメラAcorn6210を使って近くの物を狙って撮影するためには,焦点距離の調整が必要らしい.詳細は石川県立大の北村俊平さんのブログ参照).
HykeCam SP2
おそらく日本で最も広く用いられている自動撮影カメラである.私たちがHykeCam SP2に関して確認した限り,RESTには使いにくい(現在では後継機が販売されており,以下の問題点はもしかしたら改善されているかもしれない.ただし高い).
HykeCam SP2の特徴は,センサーの上下方向の感知角度が著しく狭いことである.おそらく,カメラを地面に水平に向けて設置することを前提にして作られている.後に述べるように,動物の滞在時間の測定には,カメラを成人男性の胸の高さぐらいに設置し,有効範囲を撮り下ろすと都合が良い.しかし,このカメラでそのような撮影は出来ない.有効範囲をすべて撮影できるようにカメラを設置すると,センサーの検知範囲は,カメラの足元だけになってしまい,有効範囲全体を覆うことすら出来ないのである.この欠点は,カメラを上下逆さまに設置すると解消されはする(上下逆さまに設置したカメラが木に縛り付けてあるのは,何とも不思議な光景ではある).
もう一つ,このカメラの残念な仕様は,液晶モニターが内蔵されているにもかかわらず,設置時にリアルタイムで撮影されている場所を確認できないという点である.液晶モニターがカメラの「扉の内側の部分」に搭載されているため,扉を閉じてしまうと,モニターを見られない.どういう経緯でこのような設計になったのか分からないが...(HykeCamの利用歴が長い人によると,カメラの前を動物が長期間通らないと,日時が狂うらしい.おそらくコンデンサーに電気が供給されないため時計機能が途中で止まるためだろう.BrowningやBushnellでは,こうした現象はない 2022/5/21追記).
どれだけ丁寧に使っていても,カメラは壊れるときに壊れる.2010年頃に販売されていたカメラ(例えば,Bushnell Trophy Cam)は,雨の多い時期に使うと,浸水によって数十台が一度に壊れることもあった.最近は,防水機能が強化されており,そこまで酷くはない.ただし,カメラはあくまで「消耗品」と割り切った方が良い.
以下に,私たちの場合のカメラの寿命を示す.Bushnell社製のカメラとBrowning社製のカメラに関する結果である.初期不良がない限り,大体10ヶ月くらいは持つようである.以下の図は,カメラの寿命を調べた結果である.使用条件の詳細などは,ブログを参照してほしい.カメラの生存率
カメラトラップは,屋外で使うことがあらかじめ想定されているにも関わらず,雨や湿度に対する対策がしっかりしているとは言い難い.さすがに,雨水が直接カメラの内部に進入するような設計にはなっていないが,時間の経過とともにパッキンが徐々に劣化し,雨水侵入のリスクが高まることは避けられない.
私たちは4つの対策をとっている.1つ目は,事前に雨水が入りこむ余地のある場所を,シリコンで埋めるという作業である.以下の写真のように,カメラ上部と側面の接合部,電源ジャックにシリコンを塗っている.とくに電源ジャックを埋める効果は大きい(埋めないと,この穴の近くから基盤の腐食が進む).2つ目は,雨が直接カメラに降りかかるのを避けるために,市販のお味噌のケースを半分にしたもので覆っている.これについては「カメラの調査に必要な機器の準備」で改めて述べる.3つ目は,基盤の錆が生じやすい部分をコーティングすることである.2018年頃に販売されていたBrowningは明らかにコーティング処理されておらず,短期間の使用で錆が生じていた.最近のモデルは処理されているように見えるが,私たちは,とくに錆びやすい部分(「Browning社製のカメラ」のところで示した図参照)に市販のコーティング剤を追加で塗布している.この処理は明らかに効果があるが,やはりカメラ内部を開けることになるので,保証が効かなくなる.自己責任で行ってほしい.4つ目は,カメラの連続的な利用を避けるということである.私たちは,3~4ヶ月に1回調査を行うが,その際にカメラごと交換することにしている(私たちは300台のカメラを常時設置しているので,600台のカメラが最低必要になる).雨の侵入を防ぐためのシリコンの塗布.とくに電源ジャックは埋めた方が良い.
自動撮影カメラの多くは,海外製であり,購入するためにはネット通販するか,並行輸入品を買うか,あるいは正規代理店を通じて入手しなければならない.どれを選択することかによって,購入コストが2倍から3倍も異なることがある.実際には,価格と事務処理の煩雑さを考慮して,どれにするかを選ぶことになる.
海外ネット通販
ネット通販する場合は.信頼度が高いサイトを選ぶ必要がある.お勧めは,trailcamproである.このサイトでは,様々なメーカーの自動撮影カメラが比較的安い価格で販売されている.また,カメラの性能について独自に調べた結果が掲載されており,機種間の比較を行ううえで参考になる.ただし,反応スピードについては,あくまで目安ととらえた方が良い.カメラに詳しいスタッフがおり,質問を専用フォームから送ると,数日以内には返事が来る.アメリカでの使用に関しては,1年間の保証が効くが,日本での使用についての交換は応じてもらえない.
並行輸入品の購入
科研費などの公的資金を利用する場合,大学や研究機関によって,ネット通販での購入が認められていないことがある.この場合,請求書払いが可能な業者から並行輸入品を購入するのが入手方法の一つになる.当然のことながら,並行輸入品は,海外サイトから直接購入するよりも,手数料分高くなる.さらに,(輸入業者が特別な対応をしない限り)カメラが壊れた場所の保証が効かないことにも注意が必要である.並行輸入を行っている代表的な業者にユニポスなどがある.
正規代理店
日本の正規代理店がある場合,そこから購入するのも一つの選択肢である(Bushnell社の日本の正規代理店は,阪神交易である.また,自動撮影カメラに関しては,アーカムショップも取り扱っている.正規代理店で購入した場合,1年程度の保証を受けられる.ただし,並行輸入と比べて購入コストが2倍以上になることもある(購入台数に依存.台数が少ないほど単価は高くなる).
自動撮影カメラさえ購入できれば,他に必要な調査機器は,比較的安価に揃えられる.最低限必要なものとして,以下が挙げられる.
電池については,多くの機種が単三電池を使うように設計されている.大量のカメラを使うようになると,相当数の電池が必要になる.私たちは,アルカリ電池ではなく,充電式のニッケル水素電池(Panasonic社製のエネループ)を使っている.
某サイトには,ニッケル水素電池ではなく,アルカリ乾電池を推奨することが書かれているが,私たちはとくに前者を使用していて困ったことはない.ニッケル水素電池を使うと,カメラの電池残量表示が,フル充電した状態でも低く表示されることがある.これは,フル充電されたニッケル水素電池の電圧が1.2Vであり,アルカリ乾電池の1.5Vよりも低いことに起因するものであり,電池寿命の短さを意味するわけではない.ただし,積雪のある寒冷地での調査などでははるかに電池寿命が短くなる可能性があるので注意が必要である.Browning社製の電池寿命の目安は以下の図を参照してほしい(詳細は,ブログ参照).電池寿命
「雨よけ」とは,カメラ内部に雨水が侵入するのを防ぐためにカメラ上部に取り付ける覆いを指す.雨よけの効果の厳密な検証はまだ行ったことがないが,少なくとも経験的には,雨よけの有無によって雨水が侵入するリスクは相当程度に代わっているようである.私たちは,色々な製品を試した結果,市販の味噌容器(を半分に切ったもの)の利用にたどり着いた.味噌容器は,柔らかく加工性に優れており(半分に切る際に大事),安価で比較的耐性がある.大量購入する場合(600個,カメラ1200台分)は,このサイトから購入できる.
なお,カメラには,外付けの金属製専用カバーが販売されている機種があるが(例えばこれ),湿度対策としては逆効果である.熱帯雨林で研究を行っていたある研究グループによれば,専用カバーを取り除いたところ,故障率が大幅に低下したと言う.カメラをカバーで覆うと,雨がカメラとケースの間にたまり,常にカメラ周辺の湿度が高くなる.この湿度がカメラの内部に微細な穴から侵入するのだと私は思っている.
湿気対策としては,シリカゲルをカメラ内部に入れることも考えられるが,私たちは利用していない.利用しているBrowning Strike Force HD Pro Xには,そのための十分なスペースがないことが直接の理由だが,シリカゲルは,水で飽和してしまうと「呼吸」するため,長期的に見ればかえって高湿度に保たれる可能性もある(ただし,未検証).また,無理にシリカゲル入れた結果,カメラの締まりが不十分になり,かえって水が浸入しやすくなるリスクもある.学生や調査アシスタント等にカメラを使わせると,(蓋がひん曲がっていても)無理やり閉じて設置しようとする人が非常に多い.細心の注意が必要である.
私たちは針金を利用して,カメラを設置している.付属のベルトはナイロン製のため,カメラ回収時には雨水を大量に含む.あまり触って気持ちのいいものではないし,電子機器を塗れた手で触るのは避けたい.針金は,ほぼ使い捨てになるうえに,それなりのコストもかかるが,設置の効率や耐久性を考えても,こちらの方が優れている(と私たちは思っている).私たちが使っているのは,この針金である.
カメラを長期間設置する場合には,撮影範囲を変えないために,別に準備したヒンジを木に固定し,そのヒンジにカメラを取り付けた方が良い場合もある.なお,この場合ヒンジの固定に針金を用いると,木の成長とともに幹に食い込んでいく.ナイロン製のベルトで装着した方が良い.
「カメラの設置」で詳しく述べる通り,自動撮影カメラの有効範囲を録画しておく必要がある.ロープはその外郭を囲うためのものであり,比較的太く,しっかりしたものが良い.私たちは,ポリエステルトラックロープを利用している.利用法は,「撮影有効範囲の記録」参照.
GPS機器としては,Garmin社製のGPSMAP 64系が代表的だろう.高価だが,防水性能も高く,ボタン操作なので画面が濡れても操作できる.携帯アプリとしては,地図ロイド(Androidのみ対応),ジオグラフィカ(iPhoneおよびAndroidとも対応),スーパー地形(カシミール3Dの携帯アプリ,iPhoneおよびAndroidとも対応)などが利用可能である.車でカメラ設置点近くまで赴くのには,MAPS.MEがお勧めである.このアプリは,GoogleMapなどと同様の機能を持つが,携帯の電波が届かない場所でもナビゲーション機能を使うことができる(2022/5/21追記 Androidの場合,ジオパパラッチというアプリが慣れれば使いやすいらしい.何とシェープファイルをそのまま使えるとのこと).
最近,無料で利用できるQGISが普及し,誰もがGISを使うことができるようになった.しかし,基礎的な概念を知ったうえで操作しないと,「一つの地図だけ全然違うところに行ってしまう」,あるいは「面積や距離の計算ができない」などと言ったことが起こる.この手の悩み相談?は,聞き飽きた(し,そもそも基礎的な概念を理解せずに使おうとする人が大半な)ので,最初にGISを扱ううえで必須の概念を整理したうえで,カメラ設置場所の計画に必要な操作方法を紹介する.なお,私はGISに関してまったくの素人である.理解に誤りがあれば指摘していただけるとありがたい.また,GISの基本的な事柄は知っている人は,この節に関しては読み飛ばしてもらえばよい.
大前提として,地図を作るというのは,結構大変なことを理解しよう.世界は3次元で出来ており,地球も不完全な球体だからだ.地図を作るためには,A. 地球上の任意の点における座標が振れるようにしたうえで,B. 3次元の世界を2次元の世界に投影するという作業が必要になる.前者を決めたものを測地系と言い,後者を決めたものを投影法という.
測地系は,座標を触れるように地球を近似する楕円体と原点・座標軸を決めたものであり,ローカル測地系と世界測地系に大別される.地球は完全な球体ではなく,表面に凹凸があるため,楕円に近似しようとしても様々な方法がある.地球上の一部の特定地域をもっともよく近似するように定義したものをローカル測地系という.これに対し,地球全体を上手く近似させる定義を世界測地系という.日本ではかつて,ローカル測地系である「日本測地系Tokyo」が用いられてきたが,2001年以降は,世界測地系であるJGD2000と呼ばれるものが使用されている(JGD2011は,東北沖大地震による近く辺土の影響を加味したもの).JGD2000あるいはJGD2011は,アメリカで利用されている測地系WGS84とほぼ同じである.GPSは,WGS84で記録されることが多い.測地系が決まれば,地球上の任意の地点を固有の緯度経度座標(地理座標系)で表現することができる.
測地系名称 | 別称 | 準拠楕円体 | 座標系(地理座標系) | |
---|---|---|---|---|
東京測地系 | 旧日本測地系 | Bessel 1841 | 日本独自に設定 | |
日本測地系2000 | JGD 2000 | GRS 1980 | 地心直交座標系(ITRF 1994) | |
日本測地系2011 | JGD 2011 | GRS 1980 | 地心直交座標系(東日本と北陸をITRF 2008に) | |
WGS 84 | WGS 1984 | WGS 84 | 地心直交座標系 (WGS 84) |
次に問題になるのが,3次元の地球をどのように2次元に落とし込むかである.投影法とは,この「3次元の世界を2次元に変化する方法」のことである.残念ながら,どの投影法を採用しても,角度,面積,距離のいずれかにゆがみが生じる.例えば,「地図は大きく見えても,実際の面積は小さい」といったことが起こる(投影前の地理座標系の状態では,面積や距離などを計算できない).目的や用途に応じて,どの投影法を使うべきかについては変わってくる.よく利用される投影座標系は、「平面直角座標系」と「UTM座標系」である. なお,投影法は,「ある測地系を決めたうえで,いかにして2次元座標(投影座標系)を得るか」という問題に答えるためのものである.地理座標系(球体のままの緯度経度で,測地系を決めたらだいたい決まる3次元世界)と投影座標系(球体を投影した後の2次元世界)は,異なる階層にある概念だと思った方が良い.また,GISで求められる座標参照系(CRS)とは,測地系と座標系の設定のことである.
私は,海外で調査する機会が多かったので,基本的に世界測地系WGS84のUTM図法(ユニバーサル横メルカトル図法)を利用することが多い(GPSデータもそのまま使える).日本国内では,JGD2011,平面直角座標系を用いることが多いようである.
多くの場合,調査対象エリアに関しては事前に決められており,その電子化された地図も入手可能である.例えば,大学の演習林にカメラを設置する場合,演習林の事務所に依頼すれば林班ごとのシェープファイルを提供してもらえるであろう.また,国土交通省や環境省が公開しているファイルを加工し,必要な情報を手に入れることもできるかもしれない.そうでない場合は,調査対象エリアの外周を歩きGPSで位置情報を取得するなどのプロセスが必要になる.民間のインターネット地図(グーグルマップなど)に関しては,その利用方法が規約によって厳しく制限されていることにも注意が必要である.QGISによるスキャン画像のベクタ化などについては,「業務で使うQGIS」(喜田耕一著,全国林業改良普及協会)を参照されたい.
電子地図を入手したら,そのファイル形式を確認しよう.シェープファイル形式ならばそのまま利用できる.そうでないならば,シェープファイルに変換しよう.シェープファイルは,ArcGISのESRI社によって開発されたファイル形式のことであり,図形情報と属性情報を持った地図ファイルのことである.シェープファイルという単一のファイルがあるわけではなく,複数のファイルから構成される.シェープファイルは,少なくとも3つのファイルから成り,単体で利用することは基本的にはない.
拡張子 | 保存情報 |
---|---|
shp | 図形の座標 |
dbf | 属性情報 |
shx | shpの図形とdbfの属性の対応関係 |
ソフトによっては,prj(座標参照系の情報)や shp.xml(メタ情報)を作成するものもある.前者のprjは,どのような座標参照系によるファイルなのかについての情報が記載されるものであり,これも非常に重要である.最近は,複数のファイルを扱うことの煩雑さやウエブ・ブラウザ上での地図表示のしにくさから,GeoJSONというファイル形式が普及しつつあるが,現行の地図情報の多くは依然としてシェープファイルであることが多い.ここでは,シェープファイルの利用を前提として説明する.
他のファイル形式からシェープファイルへの変換は,多くの場合,QGISで行うことができる.例えば,かつては,国土交通省が提供するXMLファイルをシェープファイルへと変換するためには,その専用のソフトの利用が必要であったが,最近は,QGISにそのための機能が設けられている.また,GPSからダウンロードしたファイルも,gpxファイルとして保存すれば,QGISでの変換が可能である.各ファイルの変換方法は,インターネットで検索すれば丁寧に説明されているサイトが必ず存在するので,ここでは省略する.シェープファイルは,その形状から,ポリゴン(多角形),ライン(線),ポイント(点)に分類される.当たり前のことだが,点や線のシェープファイルを使って面積を計算しようとしてもできない.
調査対象エリアのシェープファイル(ポリゴン)を,何らかの方法で入手できたとしよう.入手した地図をQGISに表示させるためには,QGISを開いて新しいプロジェクトを準備したうえで,シェープファイルのうち.shpファイルをドラッグするだけでよい.
QGISは,新しいプロジェクトを立ち上げた段階では,デフォルトでWGS84(EPSG: 4326)の地理座標系の世界になる.この世界に.shpファイルをドラッグすると,そのシェープファイルに.prjがある場合は,自動的にその座標参照系(CRS)に切り替わる. .prjがない場合は,そのプロジェクト世界は,WGS84のままである.WGS84以外の座標参照系を扱う場合は,ツールバーの「プロジェクト」→「プロパティ」→「座標参照系(CRS)」から,プロジェクトのCRSを定義すると良い.
プロジェクトのCRSは最悪放っておいても良いが,各レイヤのCRSは必ず設定しよう.画面左側にあるレイヤのファイル名を右クリックして,「レイヤのCRS」→「レイヤのCRSを設定」,表示されるCRSから適切なものを選んでOKしよう.日本で作られた地図ならば,JGD2000かJGD2011(東北地方で最近作られたもの)(QGISは,JGD2011に対応していないらしい.2022/5/21追記)を選んでおけば,ほぼ間違いない(多分).ただし,GPSから作成した地図の場合は,WGS84を必ず選択しよう(GPSは,もともとアメリカ(軍)のものなので,その世界はアメリカ流に出来ている).
2次元への投影前の地理座標系の世界は,単位が角度の世界なので,カメラ設置計画を立てるうえで何かと不便である.例えば,「ランダムな点を互いにXメートル以上離して生成」と言ったことが出来ない.かならず投影座標系に変換した新しいファイルを作成しよう.
変換は簡単である.画面左側にあるレイヤのファイル名を右クリックして,「エクスポート」→「新規ファイルに地物を保存」→ファイル名を入力したうえで,座標参照系を投影座標系(例えば,関東地方なら,JGD2000/Japan
Plane Rectangular CS
IX.スラッシュ以降は平面直角座標系を指す)を選択したうえで,OKをクリックする.
なお,投影座標系では,日本がいくつかのエリアに分割されて定義されており,自分の調査地のためには,どれを使ったらよいか迷うことが多い.自分が良く使うものに関しては,EPSG
(CRS)の固有番号を覚えておくとよい.最初は,親切な人がまとめたPDFなどを参考にして,自分の調査地の固有番号を調べると良いだろう.
調査可能エリアを定義するためには,調査対象エリアのうち,何らかの基準に従って調査可能かどうかの判断をする必要がある.ここでは,調査対象エリアのうち,車の通行が可能な道路から300m以内の範囲を調査可能エリアとしたと仮定して,必要なシェープファイルを作成する手順について述べる.必要なのは,投影座標系が設定された調査対象エリアと道路のシェープファイルである.
QGISの機能を用いて,道路から300mの範囲にある地域のポリゴン・シェープファイルを作成しよう.画面上部のツールバーの「ベクタ」→「空間演算ツール」→「バッファ」→入力レイヤで道路のシェープファイルを選択→距離を300メートルにし,下側にある出力ファイルのところで適当名前を与えて,実行する.なお,投影座標系にしていないと,距離指定が出来ない.必ず地理座標系を投影座標系にしたものを入力レイヤに入れる.
次に,作成したバッファ・シェープファイルのうち,調査対象エリア内にあるものだけを抽出する(調査対象エリアよりも広い範囲の道路地図に基づいてバッファを作成したことを想定).広い範囲の道路地図に,調査対象エリアの「抜型」を押し当てて切断するという作業が必要になる.GISでは,このような操作を「クリップ」と呼ぶ.
クリップするためには,画面上部のツールバーの「ベクタ」→「空間演算ツール」→「切り抜く(Clip)」と進み,入力レイヤに切り抜かれるファイル,オーバーレイヤに抜型となるファイルを選択,切り抜き結果のところで適当名前を与えて,実行する.これで,調査可能エリアのシェープファイルが表示されたはずである.
あとは,カメラ設置点となるランダムな点を生成するだけである.画面上部のツールバーの「ベクタ」→「調査ツール」→「入力レイヤの領域にランダム点群」→作成範囲に調査可能エリアを選択指定→点の数を入力,点間距離の最小値を入力する.これまでのバッファやクリップは,一時レイヤとして保存しなかったが,カメラ設置点は保存した方が良い.「ランダム点群出力」の右側のプルダウンで「ファイルに保存」を選択し,実行する.ここでも,投影座標系になっていないと,角度でしか指定できない.
GISで作成したカメラ設置点をGPSもしくは携帯のアプリで開くには,それらに応じた形式に変換する必要がある.
作成したカメラ設置点のレイヤを右クリック→「エクスポート」→「新規ファイルに地物を保存」→ファイル名を入力,保存場所を指定したうえで,一番上の形式を「GPS eXchange Format [GPX]」を選択し,OKをクリックする.これで,GPSで読み取り可能なファイルが新たに保存されたことになる.なお,カメラ設置点をGoogle Earthで表示したければ,「Keyhole Markup Language [KML]」を選んで,Google Earthで開けばよい.最近のGPS用のスマートフォンアプリでは,KMLが開けることも多いので,必要に応じてファイルの種類を選択する.
gpxファイルとして設置点情報がエクスポート出来れば,あとは,利用するGPSもしくはスマートフォンで,そのファイルを読み込むだけである.
Garmin社製のGPSの場合,USBケーブルで接続して,パソコンから転送することになる.BasecampというアプリケーションソフトがGPSに付属されているので,それを利用すると良い.かつて,Garmin社は,MapSourceという別のソフトを付属させていた.こちらの方がはるかに利用しやすかった(Basecampは,無駄に高性能化しており,非常に使いにくい).今でもMapSourceは入手できるが,GPSMAP 64系にはデータをアップロードできないので注意が必要である(いかにもアップロードされたような操作音はするので紛らわしい.GPSからパソコンへのダウンロードはできる).この他のアプリケーションソフトとしては,カシミールも利用可能である.こちらも様々な工夫がなされているソフトであるが,若干,使いにくいところがある.
調査場所が決まったら,カメラ設置のための許可の手続きを行った方が良い.私有地であれば,所有者の了解さえ得られれば問題ないが,国有林や研究林では許可取得までにそれなりの時間がかかる.必要な手続きは,許可の申請先によって異なるので,ここでは詳細は省略する.なお,必要な手続きの概略は,「小池ほか(2017):大型陸上哺乳類の調査法,共立出版」に記載があるので参照されたい.
カメラの設置場所への訪問は,カメラの位置座標を事前に登録したGPSを利用することになる.起伏の激しい地形で調査する場合,事前にGPSに等高線を入れておくとよい.多くの携帯アプリはそれに対応している.Garmin社製のGPSの日本語正規版では,詳細な地図がプレインストールされている(ただし,非常に高価).海外版を並行輸入した場合,このサイトを参考にするとよい.
カメラを森林内に設置する場合,生きている樹木に縛り付けるのが一般的なカメラの設置方法だろう.針金で設置する場合,カメラの設置に要する時間は,どのような木を選ぶかにかなり依存する.事前に定めたポイントの周辺にどのような木があるかにもよるが,可能な限り直径10~30cmの細めの樹を選んだ方が良い.上手く選べば,カメラを固定するのは一瞬で終わる.
設置する高さは,大体成人男性の胸の高さである.赤外線センサーの性質上,カメラを地面と水平方向に設置するのが最も感度を高くすることができる.しかし,RESTによる密度推定を考えた場合,水平方向から撮影された映像では,滞在時間の測定が困難になるという問題が生じる.すなわち,検出確率と滞在時間の測定のしやすさにはトレードオフがあり,そのバランスをとったのが現行の高さへの設置である.
可能な限り,予定していた設置点と近い場所にカメラを置いた方が良いが,現行のGPSの精度はそれほど高くなく,設置作業中に予定点と離れた地点に設置してしまっていることもある.この場合,わざわざ設置しなおす必要はない.動物の分布や生息地利用に対して,カメラ設置点がランダムであればよいからだ.ただし,後で回収するときに苦労しないように,改めて設置点をGPSで登録しておいた方が良い.また,カメラの近くに測量用のピンクテープをまいておかないと,後で探し回る羽目になる.
カメラをオンにしよう.カメラをオンにしよう.カメラを必ずオンにしよう!!!
自動撮影カメラのデータは,SDカードからパソコンに移動する前に,どのようなフォルダ構造にするかを決めておいた方が良い.多くの研究者は,複数の調査地や研究目的で自動撮影カメラを設置するはずだ.それらの間で,フォルダの構成とパスの深さが同じになるように設計した方が,何かと便利だろう.
私たちは,撮影された動画ファイルは,以下のように保存している.動画の保存フォルダの階層構造
もちろん,これが唯一の解というわけではない.各自の調査目的に応じて,柔軟に設計すればよい.ただし,以下の点は必ず守ってほしい.
階層を深くしすぎない
階層を深くなればなるほど,面倒なことが増える.例えば,特定の動画ファイルを再生しようとしても,フォルダを辿るだけで時間がかかる.私たちの場合でもフォルダが4階層になっており,これでも十分に深い.Windowsユーザーが,ドキュメントフォルダの「ビデオフォルダ」の中に保存すると,パスを指定するだけでも一苦労だ.出来れば,ドライブ直下に自動撮影カメラの画像ファイルを集めたフォルダを作成した方が良いだろう.大量の動画を扱う場合には,数テラバイトのSSDもしくはHDDを購入し,自動撮影カメラ専用にした方が良い.
動画ファイルは同じ階層に保存する
人によっては,動画ファイルを異なる階層に保存している人がいる.例えば,調査地に2台のカメラがあり,一方のカメラでは複数回データを回収する機会があったのに対し,他方では1度しかその機会がなかったとする.こういう場合,前者は2つフォルダに動画を分けて保存しているのに,後者では,フォルダを作らずに(一つ上の階層に)動画を保存していたりする.これは避けた方が良い.無駄に感じるかもしれないが,1度の回収機会しかなかったカメラ地点にも,回収日のフォルダを設けた方が,後々苦労が少なくて済む.
フォルダ名に日本語(全角文字)を使わない
これは絶対に守った方が良い.パソコンの世界では,全角文字は呪われている.ローマ字表記でも英語表記でもいいが,とにかく半角英数字でフォルダ名は付けた方が良い.もしかしたら,「それは文字コードが…」と言って講釈を垂れる人(そして,どうすればいいかは教えてくれない人)が現れるかもしれないが,さらっと聞き流しておこう.
自動撮影カメラのデータ管理に関しては,専用のアプリケーションソフトを用いた方が良い.大問題は,「動画を扱うのに適した汎用的なアプリケーションソフトがない」という点だ.私が知る限り,自動撮影カメラ専用のソフトTimelapse2が最適だが,Mac OSでは使えない.私は個人的にMacの(Macユーザーの?)気取った感じが苦手なので,パソコンはWindowsと決めている.以下では,Timelapse2の利用方法について紹介する.
Timelapse2の長所は,自分でGUI(画面表示)をカスタマイズできるという点である.例えば,「動物の種名を選択・入力するボックス」と「動物の頭数を入力するボックス」,「「動物の行動を選択・入力するボックス」を作成するといって感じで,各動画に関して自分が残しておきたい情報を入力するテンプレートを作成できる.そのために,アプリを起動するためのexeファイルが2つに分かれている.ユーザは,最初にTimelapse2TemplateEditor.exeで「どのような項目の入力フォームを準備するか」を決めたテンプレートファイルを作成し,そのファイルをTimelapse2.exeで読み込んで実際の作業をする,という2段階のステップを踏むことになる.一見面倒くさそうだがこれは非常に優れた特徴で,自動撮影カメラを利用する目的に応じたGUIを設計できるため幅広い研究に利用できる.ここでは,テンプレートファイルを作成するための画面をテンプレート画面,実際に各動画を見ながら情報を記録する画面を判別用画面と呼ぶことにする.
ここでは,REST用に4つの項目を入力できるようにする.動物の種名(リストから選択できるようにする),通過回数(1つの動画で有効範囲に動物が入った総回数,リストから選択),連続撮影(前の動画と同一の通過とみなせるかどうか,同じだったら1,リストから選択),備考(自由記述)の4つである.後で述べるように,滞在時間をここで測定できればいいのだが,動画の透過ソフトがTimelapse2とは同時に使えないという問題があるため,ここでは作成しない.Timelapse2を使う上では,フォルダ名も含めて日本語(2バイト文字)は使わないようにする.それこそ,文字コードの問題で文字化けしてしまう.
ソフトの使い方を書くのは面倒なので,動画を作成した.慣れれば難しくないはずなので,自分で適宜画面をカスタマイズしながら使ってほしい.