微生物共生系に基づく新しい資源利用開発 日本大学21世紀COEプログラム
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研究員と研究内容
計画研究班員 西尾 俊幸
東京農工大学農学研究科農芸化学専攻修士課程修了
1983年 サッポロビール(株)応用開発研究所・医薬開発研究所研究員
1989年 東京大学薬学部薬品合成化学研究室企業派遣研究生
1990年 農学博士号取得(東北大学)
1993年 日本大学農獣医学部農芸化学科助手
1994年 日本大学生物資源科学部専任講師
1997年 カナダ国立科学研究所・バイオテクノロジー部門客員研究員
1999年 日本大学生物資源科学部農芸化学科助教授
受 賞
2001年 日本応用糖質科学会奨励賞
糖質バイオマス資源の高度利用に係わる酵素の未利用微生物からの検索とその利用
 天然界には、ごく僅かしか存在しないが多彩な生物活性を示す単糖やオリゴ糖が数多く存在している。また、機能性が期待されているが、量産することが難しいために未だ調べられていないものも数多くある。このような生物機能性糖類を、天然糖質バイオマス資源から酵素反応により効率的に生産して利用可能にすることを目的とし、自然界の様々な領域に生息する多彩な微生物の未利用遺伝子資源から、それに係わる新規糖質関連酵素の探索を行っている(図1)。現在、下記の5つのテーマを設定して研究を行っており、一部のものについて優れた結果が出ている。


1) 特殊微生物のゲノムDNAからの糖質関連酵素遺伝子のクローニング、酵素の大量発現、およびその利用

 肌荒れの改善や皮膚の老化防止に高い効果を示す単糖として注目されているN-アセチルグルコサミンの製造に有用であるβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの遺伝子を、共生細菌Symbiobacterium thermophilumのゲノムDNAからクローニングし、本酵素を大量生産することに成功している(図2)。本酵素は耐熱性があり、また、高アルカリ性域でも極めて高い安定性を示すことがわかった。本研究では、共生細菌や難培養性細菌のような特殊微生物の生産する酵素に関する知見を得ることも重要な課題としている。


2) キシランを分解してキシロビオースを効率的に生産する酵素の探索と利用。

 整腸作用やミネラル吸収効果などが期待されているキシロオリゴ糖の酵素的生産を目指している。現在、本研究拠点が保有する368株の土壌放線菌からのスクリーニングにより、キシランをよく分解して主にキシロビオースを生産するキシラナーゼをいくつか見出しており(図3)、これらの酵素の量産とそれらを用いたキシランからのキシロビオースの効率的生産について検討している。また、草食動物の腸内共生細菌からの酵素スクリーニングも視野に入れている。


3) 結晶α-キチンを効率的に分解してキチンオリゴ糖を生産する酵素の探索と利用。


 免疫調節などに効果が期待されているキチンオリゴ糖の酵素的生産を目指している。そのためには、酵素分解が難しい結晶性α-キチンを効率的に分解する酵素を見いだす必要がある。現在、本研究拠点が保有する種々の微生物をはじめ海洋および海洋生物の腸内に生息する微生物から、そのような新規キチナーゼを探索している。また、本研究で見いだした酵素を上記のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼと組み合せ、キチンからのN-アセチルグルコサミンの酵素生産にも利用する計画である。


4)縮合・糖転移反応によりマルトースから希少グルコ二糖を効率的に生産するグルコシダーゼの探索と利用。


 免疫調節などに効果が期待されているニゲロースや、機能未知ではあるが生物活性が期待されているコージビオースの酵素的生産を目指している。これらの希少グルコ二糖をマルトースから糖転移反応により効率的に生産する新規α-グルコシダーゼを、本研究拠点が保有する種々の微生物をはじめ土壌中微生物から探索する計画である。


5) 合成特殊糖誘導体を基質として用いたスクリーニングによる新規グリコシダーゼの探索と利用。


 有機化学的手法で合成した様々な特種糖類を基質としてスクリーニングに用い、今までに知られていない基質特異性を有するグリコシダーゼを本研究拠点が保有する種々の微生物をはじめ土壌中微生物から探索している。また、それらの糖転移作用などを利用し、特殊オリゴ糖の酵素的生産を検討する計画である。


 以上の研究を進める上で、酵素遺伝子のクローニングと酵素の大量発現、遺伝子工学方的手法による酵素の特異性変換などの研究も必要になる場合があると考えている。また、資源循環型物質生産の観点から、食品産業有機廃棄物の微生物培地への利用についても検討する計画である。

図1. 糖質バイオマス資源変換に係わる酵素の
未利用微生物からの探索と利用



図2.特殊微生物からの有用糖質関連酵素の探索



図3.土壌放線菌368株についてのキシラナーゼ生産確認

1
Hakamata W, Nishio T, Oku T. Hydrolytic activity of a-galactosidases against deoxy derivatives of p-nitrophenyl a-D-galactopyranoside. Carbohydr. Res. 324:107-115, 2000.
2
Nishio T, Hakamata W, Kimura A, Chiba S, Takatsuki A, Kawachi R, Oku T. Glycon specificity profiling of a-glucosidases using monodeoxy and mono-O-methyl derivatives of p-nitrophenyl a-D-glucopyranoside. Carbohydr. Res. 337:629-634, 2002.
3
Nishio T, Kanai C, Hakamata W, Ogawa M, Nakajima K, Hoshino S, Matsuishi A, Kawachi R, Oku T. Glycosidase-catalyzed deoxy oligosaccharide synthesis. Practical synthesis of monodeoxy analogs of ethyl b-D-thioisomaltoside using Aspergillus niger a-glucosidase. Biosci. Biotechnol. Biochem. 67:1024-1029, 2003.
4
Ogawa M, Nishio T, Hakamata W, Matsuishi Y, Hoshino S, Kondo A, Kitagawa M, Kawachi R, Oku T. Substrate hydroxyl groups are involved in the ionization of catalytic carboxyl groups of Aspergillus niger a-glucosidase. J. Appl. Glycosci. 51:9-14, 2004.
5
Nishio T, Hoshino S, Kondo A, Ogawa M, Matsuishi Y, Kitagawa M, Kawachi R, Oku T. a-Mannosidase-catalyzed synthesis of a (1a2)-a-D-rhamnodisaccharide derivative. Carbohydr. Res., 2004, in press
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