5.雑草の栄養繁殖特性と再生能

1)栄養繁殖器官の種類と構造
雑草の栄養繁殖体となる器官は根茎(rhizome),塊茎(tuber),鱗茎(bulb),球茎(corm)といった地下茎(subterraneanstem,下図とU−25),根茎と同様に土中を広がる横走根(creeping−root),地表を横走するほふく茎(stolon),さらに地上部に形成される珠芽(むかご,bulbil)などがある。また幾つかの種では切断された直根や地上茎も繁殖体となっている。しかし塊茎,鱗茎,球茎,珠芽が本来的に種子に対応する繁殖器官であるのに対して,根茎,ほふく茎,横走根は耕起などで切断片となることによって初めて繁殖体となる。

組織学的にみると地下茎である根茎,塊茎,鱗茎,球茎は,その名のとおり茎である.根茎の内部構造には地上茎と同様に木部と師部が対になったはっきりした維管束と,中心部には随がみとめられ(図U−26−E),外部形態的には地上茎と同様節に当たるものや鱗片に覆われた腋芽がみとめられる(図U−26−C,D)。

塊茎は根茎の1〜数節が貯蔵物質を蓄積して肥大した形態である。

球茎は主茎の基部が肥大して球状となったもの,鱗茎は茎が短縮して多肉になった葉に包まれたものである。一方,横走根は図U−27にみられるように概観や土中での存在様式は根茎とほとんど区別できないほど似ているが,節や腋芽を持っていない点で根茎と異なる

横走根をもつ種においては,横走部分は根組織であるが,地上部につながる垂直部分は根茎つまり茎組織である。図U−27のC,Dは欧米の畑地の強害草セイヨウトゲアザミの例であるが,垂直部分の組織は基本的に図U−26のヨモギの根茎と同じであるのに対して,横走部分の構造は内皮がはっきりしていること,髄がなく木部が求心的に中心まで配列されている点などからみて,明らかに根であることが分かる。

主要多年生雑草の地下器官系と繁殖体の種類は,図U−28のように区分できる.畑地(陸生)の草種では強害草のスギナ,ヒルガオ類,ヨモギ,チガヤを始め根茎で繁殖する種が最も多く,次いで根によるものが多いのに対して,水田の主要雑草ではオモダカ,クログワイ,ウリカワ,ミズガヤツリなど塊茎を形成する種類が多い。畑雑草では塊茎だけで繁殖するのはハマスゲとスギナである。スギナは塊茎を形成するが繁殖におけるその役割は,根茎に比べて小さい。

栄養繁殖に関わる地下器官系の構造は,図U−28のように分株を形成しながら占有面積を拡大していく横走型(creepingtype)と,拡大しない単位型に大別することができる。横走型はさらに地表を横走するほふく茎よりなるもの(図U−2中のa),横走根よりなるもの(b)地下部の根茎よるなるもの(b〜e)に分かれる。そして根茎系にはヨモギ,ヒルガオ,チガヤなど多くの畑雑草にみられるように,根茎のみで構成され腋芽から萌芽するもの(b),および根茎は単なる連結組織であって塊茎やりん茎が繁殖体となっているもの(d,e)がある。

スギナは特殊な構造をもち(c),根茎節からも離脱した塊茎からも萌芽する。一方単立型については,親株の隣に子りん茎,子球茎を形成して繁殖するもの(f),オモダカのように分株を作らず塊茎を形成するものは(g),および特別な栄養器官を形成せず,主に種子に頼るもの(h,i)がある。後者のうち直根をもつギシギシやイヌガラシなど(h)は,耕起により根が切断された場合は繁殖体となりうるが,刈り取り後の再生では株基部の短縮茎が腋芽が萌芽する。また,株基部が塊状なっているもの(i)には,スズメノヒエなど叢生するイネ科多年草,短縮茎の集合体のスイバなどが,小塊茎の塊といわれるイヌホタルイなどがある。

図 多年生繁殖栄養器官
A:鱗茎(ムラサキカタバミ),B:球茎(カラスビシャク),C:塊茎(ハマスゲ,,ウリカワ,ミズガヤツリ),D:匍匐茎:カタバミ,ジシバリ),E,F(クリーピングルート):ワルナスビ,ガガイモ,ヤブガヤシ),G,H(根茎):ヨモギ,セイタカアワダチソウ,スギナ)
地下器官構造の型 栄養繁殖体 畑雑草 水田雑草
横走型 a type
(creepig type)
匍匐茎片 カタバミ,シロツメクサ,ジシバリ,チドメグサ セリ,キシュウスズメノヒエ
b type 根片
(クルーピングルート)
ヒメスイバ,ガガイモ,ワルナスビ,キレハイヌガラシ,ガガイモ,ヤブガラシ
根茎片 ヨモギ,ヨメナ,セイタカアワダチソウ,フキ,ハチジョウナ,ヒルガオ類,ドクダミ,イタドリ,カラムシ,シバムギ,チガヤ,ヨシ,ネザサ,ヒメクグ,ワラビ マツバイ
c type 根茎片 スギナ
塊茎
d type 塊茎 ハマスゲ コウキヤガラ
e type 塊茎 クログワイ,ウリカワ,ミズガヤツリ
鱗茎 ヒルムシロ
単立型 f type 鱗茎 ムラサキカタバミ,ノビル
球茎 カラスビシャク アギナシ
g type 塊茎 オモダカ
h type 根片 ギシギシ類,タンポポ類,イヌガラシ
i type スズメノヒエ,ネズミムギ,ホソムギ,イヌムギ,カモジグサ,オオバコ,スイバ イヌホタルイ,ヘラオモダカ
 図U−28 多年生雑草地下器官構造の類別と主な雑草
土中深度は草種により異なる。
2)多年生雑草の生活環
主たる繁殖の形態と該当する雑草は以下の通りである。赤字は水田雑草を示す。
主たる繁殖形態 草種
種子繁殖・栄養繁殖 ヨモギ,セイタカアワダチソウ,シロツメクサ,カタバミ,チガヤ,ヨシ,シバムギなど
栄養繁殖>種子繁殖 オモダカ,ウリカワ,ミズガヤツリ,ヒルムシロなど
栄養繁殖 ヒルガオ,ネザサ,ハマスゲ,ムラサキカタバミなど
種子繁殖 スズメノヒエ,ネズミムギ,ホソムギ,イヌムギ,カモジグサ,オオバコ,スイバ,イヌホタルイ(株越冬もある),ヘラオモダカ
種子繁殖であるが根の切断により栄養繁殖するもの ギシギシ,イヌガラシ,メマツヨイグサなど
表U−21 日本の耕地の主要多年生雑草の種類
      草種 (科) 問題となっている地域
寒地 寒冷地 温暖地 暖地
          水 田
オモタカ      (オモタカ科)  ○
ヘラオモタカ    ( 〃 )
ウリカワ      ( 〃 )
ヒルムシロ     (ヒルムシロ科)
セ リ       (セリ科)
イヌホタルイ    (カヤツリグサ科)
ミズガヤツリ    (  〃  )
タログワイ     (  “  )
マツバイ      (  〃  )
コウキヤガラ    (  〃  ) 干拓地
シズイ       (  “  ) 寒地・寒冷地
エゾノサヤヌカグサ(イネ科) 寒地・寒冷地 
キシュウスズメノヒエ(〃 ) 温暖地・暖地・畦畔                       
        畑・樹園地  寒地 寒冷地 温暖地 暖地
スギナ (トクサ科)   ○
ヨモギ類a (タデ科)   ○
ギシギシ類b (〃 )   ○
ヒメスイバ (〃 )    ○  
ヒルガオ類C (ヒルガオ科)   
ムラサキカタバミ (カタバミ科)   
チガヤ (イネ科)   
ハマスゲ (カヤツリグサ科)   
ヤプガラシ (ブドウ科) 樹園地
セイヨウタンポポ (キク科) 寒地・寒冷地の樹園地
セイヨウトゲアザミ (〃 ) 寒地の畑地
キレハイヌガラシ (アブラナ科) 寒地の畑地
シバムギ (イネ科) 寒地の畑地・草地
コヌカグサ (〃 ) 寒地の畑地・草地

a:北海道ではオオヨモギ,b:ギシギシおよびエゾノギシギシ,C:ヒルガオおよびコヒルガオ