<ムツおよびクロムツの生態〜クロムツの幼魚はどこに?〜>

 世界の海に分布するムツ属(3〜4種)のうち、日本列島周辺海域を主な分布域とするムツScombrops boopsおよびクロムツScombrops gilbertiは、形態だけでなく、生態も酷似している。両種とも幼魚期に岩礁海岸周辺などきわめて浅い水深帯で群生し、成長に伴い水深200-700 mの中深層帯に生息場所を移すとされる。両種とも3000円/kg以上と市場価格の非常に高い重要な産業魚種であるが、その生態に関する詳細な研究は皆無である。本研究では、分子生物学的手法を用いてムツおよびクロムツを判別する方法を開発すると共に、両種の生態について調べている。
 日本列島の沿岸に出現するムツ属幼魚および若魚を対象に遺伝子分析を行うことで、日本各地のムツおよびクロムツの種構成が明らかとなるとともに、その出現比率からムツおよびクロムツの産卵海域および成育海域が絞り込めることが期待され、生態解明の一助となると思われる。特に、クロムツについてはその幼魚および若魚の実態が報告されておらず未知な部分が多いため、その生活史を知る上で重要な情報となると考えられる。


1.PCR-RFLP法によるムツおよびクロムツの種判別法の確立

 まず、形態的特徴をもとにムツおよびクロムツを判別した(図1)。種々の計測形質について調べた結果、側線有孔鱗数がもっとも有効であることが明らかとなった(ムツ,51-56;クロムツ,60-62)。続いて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)にコードされる16S rRNA遺伝子の部分配列を決定した。この配列をもとに2種類の制限酵素EcoNIおよびMvaIを用いることで両種の判別が可能であることが示唆された。そこで、これら2種類の制限酵素を用いるPCR-RFLP解析を行った結果、両種の判別が可能であることが明らかとなった(図2)。

図1.ムツおよびクロムツの成魚.
図2.PCR-RFLP法によるムツおよびクロムツの種判別結果.レーン1〜6:ムツ(S. boops);レーン7〜10:クロムツ(S. gilberti);レーンM:分子サイズマーカー.制限酵素はEcoNIおよびMvaIを用いて判別を行った.矢印は制限酵素処理によって生成されたDNA断片を指す.両種のバンドパターンが明確に異なることが分かる.



2.関東南岸に出現する小ムツのPCR-RFLP法による種判別
 PCR-RFLP法により房総半島から伊豆半島・伊豆諸島周辺海域に出現するムツ属幼魚・若魚を対象に種構成を調べた。小ムツは、鱗がはがれやすいため、その外見的特徴から種判別を行うことが難しい。そこで、小ムツ試料をPCR-RFLP法により種判別を行ったところ、その大部分がムツS. boopsであり、クロムツS. gilbertiはごくわずかであることが明らかとなった。
図3.関東南岸におけるムツ属試料の採取地点.斜線部分で試料を採取した.h, iおよびmでは、大型個体、その他の地点では幼・若魚を採取した.


 本研究の結果は、学術雑誌Fisheries Scienceで公表済みである。

 なお本研究は、当学科の海洋生物資源管理学研究室との共同研究である。


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