<カジカの地域個体群の系統分類>

 1950年代半ばから1970年代初頭の高度経済成長に伴う河川の汚染により、様々な水生生物が姿を消し、生態系の破壊が進んだ。近年、法整備や環境保護の機運の高まりもあり水質の改善された河川が増えつつある。このような時代変化の中で河川に生息する生物の分布も変化しつつある。このような背景の下では、在来個体群の保護は急を要する事項である。商業的価値が高い魚種や遊漁の対象種は人為的な放流が盛んに行われ、実態の把握は不可能に近い。しかしながら、このような枠組みに当てはまらない種では、在来個体群が維持されている可能性が高い。この点に着目した場合、カジカCottus polluxは非常に興味深い魚である。カジカは日本全国の河川に分布するが、各県で発行しているレッドデータブックでは、絶滅危惧種に指定されるなど、その個体数は全国的に減少しつつある。そこで本研究では、全国の河川からカジカを採取し、そのハプロタイプ多様度を調べることで各地域固有の個体群の位置づけを明らかにする。

 本研究は、カジカ資源量回復の著しい多摩川での研究に端を発している。高度経済成長期に多摩川は、「死の川」とよばれるほど汚染され、様々な生物が姿を消した。ところが現在では、カジカをはじめ様々な魚類が見られ、その多様性には目を見張るものがある。水質の変化に敏感な魚であるカジカも観察される。このカジカの回復が人の手により移植されたものなのか、それとも多摩川水系固有の個体群が増殖することで回復したのか興味が持たれる。多摩川の個体群について調べるためには、日本各地の個体群の遺伝的背景について調べる必要があると考え、研究を進めている。

 現在、日本各地で試料採取を行い、日本各地のカジカ個体群の拡散過程が遺伝的な背景から明らかになりつつあり、多摩川の個体群の位置づけについても明らかになりつつある。
写真1.秋田県米代川で採取したカジカ.

写真2.栃木県那珂川支流箒川での試料採取風景.手網を使い、浮石の下に隠れているカジカを採取する.採取したカジカは、数個体を標本用とし、残りは胸鰭の軟条数を計数後、DNA分析に必要な腹鰭を採取して放流する.

写真3.東京都北浅川のカジカ.カジカは生息場所により色彩が異なる。また、河川により生息環境が大きく異なる場合もある.



 なお本研究は、財団法人とうきゅう環境浄化財団(2006および2007年度)および財団法人日本科学協会(2007年度)より助成金の交付を受けて遂行している。


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