<海洋細菌Vibrio proteolyticusのα-キチン分解能>

 エビやカニなどの甲殻類などに多く含有されるキチンは、セルロースに次ぐ莫大なバイオマスであるのに加え、キチンを分解して得られるオリゴ糖や多糖類は様々な生理活性をもつことから幅広く利用されている。例えば、コレステロール吸収抑制や抗菌性など多くの機能をもち、抗菌繊維用原料として広く利用されているほか、医薬品や健康食品原料などとしても期待されている。しかしながら、これらキチンを分解して利用するには強酸・強アルカリ等による化学的処理を必要とすることから、大量に生じる廃液の処理などの問題が残され、効率の良い分解法が求められている。また、化学的な分解では多様な分解産物が生じ、特定のオリゴ糖を効率よく得られないのが現状である。そこで、酵素学的手法によりキチンを分解し、オリゴ糖を得ることができる点に着目した。自然環境下ではキチンは細菌などによる作用を受けて分解される。事実、多種多様な生物がキチンを含有するにもかかわらず、自然環境下ではこれら生物のキチン質は蓄積することなく速やかに消失する。環境中にはキチンを強力に分解する活性を有する細菌などが存在することが知られ、種々の細菌種由来キチナーゼが単離・同定されてきた。それにもかかわらず、未だ高い活性を有する、あるいは未知のオリゴ糖を産生するなどの特徴あるキチナーゼに関する研究が続けられている。これら細菌のキチナーゼを用いることで穏和な条件下でキチンを大量に分解し、特定のオリゴ糖を効率よく得ることが可能となるだけでなく、新規のオリゴ糖や多糖を調製できることが期待される。

 最近我々は、魚類腸内から分離された海洋細菌Vibrio proteolyticusがα型結晶キチンを速やかに分解することを見出し、そのキチナーゼの分離および全長850アミノ酸残基をコードする3,500 bpの当該遺伝子をクローニングした。演繹アミノ酸配列を既報のキチナーゼA前駆体タンパク質のものと比較した結果、他のVibrio属キチナーゼA前駆体と約80%の高いアミノ酸同一率を示した。また、その一次構造から、糖鎖分解酵素ファミリー18に分類される領域を有すると共に、フィブロネクチンタイプIII様領域および糖鎖結合領域を含むことを明らかにした。ただし、既報のVibrio carchariaeVibrio harveyi)のキチナーゼAは、N末端側のシグナル配列およびC末端側のフィブロネクチンタイプIII様領域以後がプロセッシングを受けることで、63〜65 kDaの成熟タンパク質となることが報告されており、我々が分離・遺伝子クローニングしたキチナーゼとは大きく異なる。

 そこで我々は、図1に示すような2種類の大腸菌発現系を構築し、キチン含有寒天培地上で大腸菌を培養した。その結果、図2に示すように、キチナーゼ遺伝子全長を保有する大腸菌発現系はC末端側250残基を欠損する遺伝子を保有する株よりもキチン分解活性が高いことが分かった。 図1.V. proteolyticusキチナーゼA遺伝子全長およびC末端側約250アミノ酸残基を欠損したコンストラクトの模式図.このようなタンパク質を発現する大腸菌発現系を構築した.

図2.Vibrio proteolyticus由来キチナーゼ遺伝子を導入した大腸菌のキチン分解活性.13, V. proteolyticusキチナーゼ遺伝子全長を持つ大腸菌;C, コントロール(発現ベクターのみ);25および29, C末端側を欠損したV. proteolyticusキチナーゼ遺伝子を持つ大腸菌.  これら大腸菌発現系から得られる組換えタンパク質を精製し、それぞれ比活性を測定した結果、V. proteolyticusキチナーゼの全長はC末端側欠損型よりもキチン分解活性が高いことが分かった。また、これら組換えタンパク質によって生成する最終分解産物は、アセチルキトビオース(2糖)であることが明らかとなった。

 本研究の結果は、学術雑誌Biochimica et Biophysica Acta - Proteins & Proteomicsで公表済みである。






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