研究内容>伊豆半島周辺域の河川魚類相

研究内容

伊豆半島は,本州を地質学的に分断する地溝帯「フォッサマグナ」の南端に位置しています.もともと伊豆弧の火山島であった伊豆地塊が,約100万年前,フィリピン海プレートの沈み込み境界まで到達して深海化し,やがて陸化して現在の伊豆半島の原型を形成するに至りました.したがって,伊豆半島における淡水魚類相の形成史は比較的浅く,伊豆半島に天然分布する純淡水魚は全て,過去100万年の間に起こった陸化の後に本州から分布を拡げた種であると考えられます.

伊豆半島の淡水魚類相については,全域的な調査が1970年代から1980年代にかけて複数の研究グループによって実施されましたが,その主要成果は狩野川水系に関するものであり,規模の小さい水系群が各地に点在する半島南部については丹念に調べられてきませんでした.狩野川水系と南部各地の小水系群は最上流の細流域で近接していますが,流程距離,河川勾配,および流入海域は水系によって大きく異なっています.したがって,狩野川水系の魚類相を詳細に調べただけでは,伊豆半島全体の魚類相を正確に把握することはできません.そこで本研究室では,北部に広がる狩野川水系と南部に点在する小水系群について網羅的な魚類相調査を進めてきました.

伊豆半島に広がる河川水系
南部の稲生沢川水系で採集された魚種(高井ほか2011)
北部の狩野川水系で採集された魚種

ウグイ,オイカワ,アブラハヤ,タカハヤなど,川の中をすばしっこく泳ぎ回る紡錘形の魚は,一般に「ハヤ」という呼び名で親しまれています.面白いことに,伊豆半島の南西部には全国各地の河川で普通に見られるウグイが生息していません.伊豆半島ができてから100万年を経てもウグイは進出できなかったのかもしれません.

伊豆半島南部においてウグイ,オイカワ,アブラハヤ,およびタカハヤが採集された地点
●採集あり、○採集なし

調査を積み重ねてきた結果,伊豆半島の河川には多くのレッドデータ記載種や外来種が生息していることを把握することができました.こうした魚類相のデータは,伊豆半島の環境保全対策を講じる上での基礎情報として活用されております.現在は,調査対象を関東南部に広げて魚類相調査を進めています.

主要成果論文

  • 高井ほか(2011)伊豆半島南部の稲生沢川水系における魚類の流程分布.魚類学雑誌,58, 13-25
  • Takai et al. (2012) Species identification of upstream fatminnow Rhynchocypris oxycephalus and downstream fatminnow Rhynchocypris lagowskii, based on PCR-RFLP of mitochondrial DNA. Ichthyological Research, 59, 156-163