教員の研究 

鳥マラリア(DAPI染色)


動物園では、動物園動物の感染症、臨床・診断、繁殖などに関する研究をおこなっていました。大学では、対象を水族館動物や野生動物に拡大して同様の研究を継続しています。現在進行中の研究テーマは以下のとおりです。

1) 鳥類の性判別法に関する研究
希少鳥類の性判別法開発は重要なテーマのひとつです。雌雄同型の鳥の飼育下繁殖を試みる時に、動物園では必ず求められる技術ですから、簡便・迅速・安全・安価な方法を開発して普及させたいと考えています。これまで、染色体核型分析、性ホルモン分析、計測値の多変量解析などを用いて雌雄同型鳥類の性判別を試みてきました。現在は、DNA分析による性判別をさまざまな鳥種で試みています。

2) コウノトリの保全生物学的研究
野生復帰が計画されているコウノトリは、動物園に勤務し始めてから26年来研究対象にしています。日本産のコウノトリは1986年2月28日に絶滅しましたが、現在、兵庫県豊岡市において再導入(Reintroduction)計画が進行中です。獣医的、生理学的、分子生物学的に種の特性を解明することで、本種の生息域内および生息域外保全に役立てたいと考えています。



3) 鳥類の原虫感染に関する研究

これまで動物園の飼育鳥類および日本産野鳥の血液原虫について研究してきました。現在は、高山地帯に生息するライチョウの血液原虫(ロイコチトゾーン)に関する研究にも着手しています。氷河期の生き残りといわれる貴重なライチョウに与える血液原虫の影響や感染状況、地球温暖化による感染率拡大の可能性、さらにヨーロッパや北アメリカに生息するライチョウの血液原虫との遺伝子レベルでの違いや共進化について探ってゆく予定です。

4) 『動物園学』の確立

日本大学での担当講義は、「野生動物学」、「動物生態学」、「動物資源科学概論」、「動物資源科学演習」、「野生動物学演習」、「動物園論」などです。とくに最後に記した科目については、動物園が正規の講義として大学で論じられることは稀ですから、国内で動物園学や動物園生物学(ZOO BIOLOGY)を確立させるためにも、動物園と動物園動物に関するさまざまな研究成果を講義内で発表してゆきたいと考えています。動物園の本来的役割については、いくつかの雑誌に書いていますので、興味があればご覧下さい。

「研究者による動物園の飼育動物を材料とした研究−動物園は動物学研究の宝庫である−」(哺乳類科学 2003)
「岐路に立たされている動物園」(シュプリンガー・サイエンス 2003 Vol.18, No.2)
「日本の動物園における研究−その過去・現在・未来−」(生物科学 2004 Vol.53, No.3)