3.種って何?

 皆さんが本や新聞,ニュースなどで耳にする言葉,新種,絶滅危惧種,希少種......種という言葉が何気なく使われています.生物の教科書などでも種という言葉当たり前のように使われていますが,種とは一体何なのでしょう?
 ここで,分類学的なランクを説明したいと思います.タヌキを例に挙げてみますと,

界 Kingdom:動物界 Animalia
 門 Phylum:脊椎動物門 Vertebrata
  綱 Class:哺乳綱 Mammalia
   目 Order:食肉目 Carnivora
    科 Family:イヌ科 Canidae
     属 Genus:タヌキ属 Nyctereutes
      種 Species:タヌキ procyonoides

 このように,分類学的なランクというのは,序列(ヒエラルキー)として定められており,その最も基本的な単位は「種」です.種の下には亜種(Subspecies)というランクがありますが,これは同一種内の地域変異について設けられたもので,同じ種であることには変わりありません.この基本単位となっている種ですが,どのようにして種は決められているのでしょうか?
 私たちは通常の生活で目の当たりにした動物に対して「サル」「イヌ」「ネコ」「カラス」と和名を言えることができますが,実際に「イヌ」は何を根拠にイヌとされているのか,考えたことがありますか? ワンワンと鳴いて尻尾を振るからイヌとされているわけではありません.実は,きちんとした「イヌ」となるべき根拠があります.ネコにもサルにもその根拠はもちろんあるのですが,それは一般に流布していることではありません.生物学的に,「種」はきちんとした定義に則って定められているのです.
 では,その生物学的な種の定義について話を進めたいと思います.種の定義は,実は一つだけではないのですが,現在,動物に対してコンセンサスを得られている種の定義が「生物学的種」という概念です.これは1942年,エルンスト・マイアという学者によって提唱され,「生殖的隔離」に基づいて種を設けよう,というものです.生殖的隔離とは,生殖的に隔離されている,すなわち,繁殖が可能かどうかということです.ランダムな繁殖が可能な仲間を,一つの種と認めようというものです.ということは,互いに繁殖ができない仲間が複数存在した場合,そこには複数の種が存在することになります.例えば生殖的隔離には,繁殖時期が合わない,生殖器の形状が物理的に異なる,といった例が挙げられます.春繁殖型のチョウと秋繁殖型のチョウの間には,季節的な隔離機構があり,両者の間で遺伝子が往来することはありませんから,結果として生殖的隔離が成立しているので,異なる種に認められるのです.このように,「生物学的種」という概念は,非常にわかりやすい万能な定義に思われます.
 しかし,生物学的種を検証するとなると,そう簡単ではありません.小さな動物や昆虫などでしたら,飼育下で繁殖するか,しないかを実験的に調べることができますが,大きな動物や海洋動物などになると,実験的に調査することすら不可能になってきます.直接的な生殖的隔離の証拠をつかめない場合には,間接的な状況証拠を積み重ねていくなくてはなりません.例えば,極端に体のある部分のサイズが異なっている,色が異なっている,というような場合,中間型が認められないのであれば,異なるグループ間に生殖的隔離が成立している可能性があります.ただし,中間型がたまたま見つかっていないだけかもしれませんし,成長段階の違いだけかもしれませんので,生殖的隔離が成立しているかどうかの判定は,慎重に行われなければなりません.
 最後に,進化について少し触れておきたいと思います.皆さんご存じのように,進化とは,生物が時間の経過とともに変わっていくプロセスのことをいいます.進化の過程で繁栄する生物もいれば絶滅して消えゆく生物もおります.現存する全ての生物は,地球誕生以来の著しい環境の変遷を生き抜いてきた進化の生き証人達です.また進化の中で数々の「種」が生み出されてきたことも推察されています.ところで種はどのようにして生み出されてきたのでしょう.
 先に,種の判定には生殖的隔離が有効だと述べました.ということは,種が生み出される過程とは,生殖的隔離が成立していく過程と言い換えることができます.19世紀終わりに「種の起源」を出版し,進化という概念を提唱したチャールズ・ダーウィンは,進化の原動力は個体に生じる変異と自然選択による淘汰であると述べました.私たちは一人一人の姿形が異なるように,個々人に特有の変異を持っています.全ての生物が個体変異を有しています.この変異が長い年月の間に蓄積してくるとやがて大きな変異になります.この大きな変異がきっかけになって生殖的隔離をもたらした場合,種が生まれると考えられるのです.すなわち,この過程が新たな種の生まれる過程「種分化(speciation)」ということになります.

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