日本大学生物資源科学部

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PICK UP
2016.3.15

PICK UP 学部・学科横断研究の最前線

本学部には様々なプロジェクトや活動などが行われています。ここではさまざまな角度から学部の中身を紹介し、日本大学生物資源科学部を身近に感じていただける話題を提供いたします。

日大の研究プロジェクトで“健康長寿”に迫る

profile

山形 一雄(やまがた・かずお)
食品生命学科 教授

細野 朗(ほその・あきら)
食品生命学科 教授

熊谷 日登美(くまがい・ひとみ)
生命化学科 教授

関 泰一郎(せき・たいいちろう)
生命化学科 教授

宇野 茂之(うの・しげゆき)
本学医学部医学科 専任講師

鈴木 爽花(すずき・さやか)
大学院 生物資源科学研究科 博士前期課程2年

矢口 真実(やぐち・まなみ)
大学院 生物資源科学研究科 博士前期課程2年

心身が健康なまま長生きすることは、人類共通の願いではないでしょうか。とくに超高齢社会を迎える日本では「健康長寿」は社会的意義の大きいテーマといえます。この「健康長寿」をテーマにした学部・学科横断のプロジェクトに参加した5人の教員たちに話し合っていただきました。
抗老化、抗炎症、抗がんの
3キーワードからアプローチ
―プロジェクトはどのような経緯で立ち上がったのですか?
山形 3年ほど前から、本学部の先端食機能研究センターにおける活動を強化する目的から、新しい研究プロジェクトを始めようという動きがありました。そのときに、これから日本が向かう高齢社会で大きな問題となる「健康長寿」をテーマにしたらどうかという話になり、2013年4月から1年間の総合研究プロジェクトを立ち上げました。テーマ名を「健康長寿をめざした食品中の新規高次生理機能分子の探索とその分子機能」とし、私が研究代表を務めさせていただくことになりました。1年経過した時点で継続となり、2014年3月に終了しています。
 研究テーマは、簡単に言えば、食品に含まれる成分がどのようなメカニズムで健康長寿に役立っているのか解明することです。そのためのアプローチとして、山形先生は「抗老化」「抗炎症」「抗がん」という三つのアプローチを提案され、私はそのうちの「抗炎症」を担当しました。具体的には、ニンニクの成分による動脈硬化などの血栓性疾患の予防効果について研究しています。
宇野 私もニンニクの成分に着目したのですが、「抗がん」の面から健康長寿にアプローチしています。がんの原因は、「異物代謝*1の異常」から説明できます。つまり、異物代謝がうまく働かないために生じる異物の中間代謝物がDNAに結びつき、がんのイニシエーション*2(遺伝子の変異)が起こるきっかけになるということです。ニンニクの成分が、そうした異物代謝を増強するのではないかと考え、実験によってそれを検証していきました。
熊谷 私は、嗜好性、つまり美味しさを維持しつつ、健康に役立つ食品成分を見つける研究を行っています。プロジェクトでは、「抗老化」および「抗炎症」という観点で、糖尿病予防に役立つ食品成分を見つけることに注力しました。
山形 三つのアプローチの分担でいえば、プロジェクトの一メンバーとして「抗老化」を担当しました。私自身の主な研究のフィールドは、生活習慣病に対する食品成分の予防効果です。生活習慣病は、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中に結びつくとされています。このプロジェクトでは、生活習慣病*3が動脈硬化だけでなく、老化にも密接に関係するのではないかという仮説のもと研究を進めました。
細野 他の先生方は食品成分の側から研究を進めておられますが、私は、食品を受け止める側である体内の腸の働きに注目しています。人間の腸の中には、体内の細胞の数より多い無数の腸内細菌*4が存在しています。これらが、食物が引き起こす炎症反応を抑える働きをすることでアレルギーや感染症を防いでいるのです。そこで、このプロジェクトでは、人が健康で長生きするために欠かせない腸内細菌の免疫機能を調べていきました。

  • *1 異物代謝 薬物と毒物はいずれも人体にとっては「異物」である。その異物を排出または害のないものに変える(解毒)機能の総称を異物代謝という。薬物代謝とも言われ、医薬品が体内で正しく分解あるいは排泄する為の代謝反応の総称で使われることが多い。
  • *2 イニシエーション 発がんの第1段階をイニシエーションという。タバコ、ウイルス、放射線などさまざまな発がん物質が細胞のDNAに傷をつけ、遺伝子変異を引き起こし細胞ががん化する段階を指す。
  • *3 生活習慣病 食習慣や運動習慣、喫煙、休養などに密接に関連して進展、発症する病気の総称。糖尿病、高血圧症、脂質異常症などがあり、これらの複合的な病態はメタボリックシンドロームと呼ばれている。メタボリックシンドロームは、心疾患や脳血管疾患、がんなど直接の死亡原因になる病気にも発展しかねない状態である。生活習慣病の予防は、健康長寿には欠かせない対策である。
  • *4 腸内細菌 人間や動物の腸の中に生息する微生物の総称。人間の腸には100種以上、500兆個以上の細菌が常在し、体内の機能を助け健康維持に貢献したり、害を及ぼしたりする。
食品成分の予想以上に
奥深い機能が明らかに
―2年間のプロジェクトの成果、またそこからどんなことが今後期待されるのか、先生方のお考えをお聞かせください。
 日本人の死亡原因の1位はがんで、2位は心疾患、そして3位には肺炎と脳血管疾患がほぼ同数でランキングされています。この心疾患と脳血管疾患はいずれも血栓性疾患であり、両者を合わせると、1位のがんと同じくらいの人数になります。つまり、日本人の健康長寿を考える際に、血栓症予防対策は必須といえます。血栓症は、メタボリックシンドロームといわれる内臓脂肪の増加した状態によりおこる動脈硬化が原因となっています。動脈硬化において、血栓症につながる炎症が、ニンニクの成分によって抑えられる、その仕組みがこの間の研究で明らかになってきたのが、一つの成果です。

図1


山形 私も、生活習慣病から来る動脈硬化を防ぐという方向で研究を進めました。動脈硬化は血管内皮細胞の機能が阻害されることによって起こるのですが、どのような因子が阻害要因になっているのかを調べつつ、細胞の老化との関係を探りました。その結果、動脈硬化と細胞の老化の両方を防ぐ作用のある食品成分があることが分かってきました。
熊谷 生活習慣病の一つである糖尿病は、血液中のグルコース*5濃度が上昇することによって発症します。このプロジェクトでは、そのグルコースの吸収を抑制する食品由来の成分を突き止めようとしました。実験を繰り返す中で、米から抽出したユニークなタンパク質がグルコースの吸収抑制に効果があることが分かってきました。このタンパク質は米粒の表面近くに存在していますが、とぎ汁など普段なら不要なものとして捨ててしまうものを有効利用できます。また、加熱しても溶解度がほとんど変化しません。しかも無味無臭です。すなわち、さまざまな食品に加工しても、嗜好性にも機能にも影響を及ぼさないのです。
宇野 関先生がおっしゃったように、日本人の死因のトップはがんです。すなわちがんを予防することは、健康長寿に直接結びつくものといえます。そこでがん予防へのニンニクの成分の働きを調べていったのですが、現段階では、培養細胞のレベルにとどまっています。今後、生体(動物)での実験に移り、ニンニクの成分が異物代謝を助け、がん予防に役立つことを証明していきたいと考えています。
細野 このプロジェクトにおける研究ではまだ食品との関係を見つけるまでの途中段階なのですが、大腸の免疫の仕組みが炎症を抑えるうえで大切な役割を果たしている証拠となる現象をいくつか見つけました。それを体内のさまざまな箇所で発症する炎症性疾患を腸の中から制御するメカニズムの解明に結びつけていけたらと思っています。
山形 今回のプロジェクトを通して、食品成分は、もちろん単純な作用しかないものもありますが、我々が考えている以上に、体内で奥深い働きをしているということが垣間見れました。たとえば、コーヒーやリンゴなどに含まれるクロロゲン酸は、体内に摂取されると自らの構造を変化させます。その変化したものは、体内の血管や腸管などに存在し、体の機能を調整する役割を果たしています。実験してみたところ、その変化して体内に存在する成分の方が、クロロゲン酸そのものよりも強い働きをすることが分かりました。このように、さまざまな食品成分が形を変えることで、体の調整機能を担っていることが、プロジェクトで明らかになってきました。ここを入口として、幅広く奥深い、食品のもつ健康に対する作用が具体的に明らかになっていくことが期待されます。
宇野 エネルギーにはならないけれども何らかの機能をもつ食品成分が、健康長寿に重要な役割を果たすことが、このプロジェクトで鮮明になってきていますね。私の担当領域でいうと、タバコの主成分に含まれるある発がん性物質が、加工された食品中に多量に含まれていることが分かっています。しかし、それを摂取した大多数の人はがんにならない。その理由として考えられるのは、体内でその発がん性物質を代謝するシステムを増強する成分が食品に含まれているからかもしれません。
 どうやら食品というのは「情報分子」である、ということが分かってきています。つまり、食品を摂取するということは、体に必要なエネルギーや栄養を取り入れるだけでなく、体に「情報」を送り込むという意味があります。たとえば熊谷先生の見つけられたタンパク質は、それそのものの栄養学的な価値は高くありません。しかし、血糖値を調節するという高い機能を持っています。また、細野先生が研究されている大腸の機能にしても、消化が終わった後の排泄のプロセスを担っているものであり、栄養の摂取には直接関連が低いものです。しかし、実際にはこれらの栄養学的には価値の低い食品やプロセスが、からだ全体の機能の調整に大きな役割を担っているのです。すなわち、「食品が単なる栄養の“運び屋”ではなく、体内の機能を積極的に調節する情報分子である」と考えると説明がつきます。また、どんな食品を“いつ”どういうタイミングで摂取すればいいのか、という問題も重要になってきます。このプロジェクトの成果から、そうした「情報交換」の観点で健康長寿につながる食品およびその摂取の仕方を考えていければと思っています。

  • *5 グルコース 「ぶどう糖」とも呼ばれ、生物が活動するエネルギーのもとになる糖の一種。血液中のグルコースは「血糖」といい、その濃度が高いと糖尿病が疑われる。
「うまくいかないこと」が
学生の成長につながる
―今回のような学部・学科横断プロジェクトのメリット、また学生たちへの教育効果について、どのようにお考えですか?
山形 今回のプロジェクトでは、本学部生命化学科から2名、食品生命学科から2名、さらに本学医学部から1名の教員が、それぞれ違う角度から同じゴールをめざすものでした。当然ながら、一つの研究室だけの研究よりも深みのある成果が出てきていると思います。共通の問題意識をもって同じゴールをめざしているけれども、それぞれ切り口が違う。その違いの中から、当初は想像していなかったようなことが起きる、というメリットは存分に発揮できたかと思います。
宇野 それぞれの先生方で研究の方法が違います。研究内容もさることながら、実験に使う設備、材料が違います。アプローチの違いだけでも、さまざまな新しいことが分かり、とても刺激になりました。
 学部や学科単位のプロジェクトよりも、情報発信力が格段に高まるというメリットもあるのでしょうね。プロジェクトの研究は学生が主体で行いましたが、学生のプレゼンテーションを他の研究室の教員や学生が聴く機会は、このようなプロジェクトでなければ、まずありえません。分野の壁を越えて情報発信することで、また新しい研究につながりますし、学生たちへの教育効果もきわめて高いのではないでしょうか。
熊谷 私の研究室では、実は最初の段階では、米由来のタンパク質が、体内のα-アミラーゼという酵素の活性を阻害し、デンプンの分解を抑制するとにらんで実験を進めていました。ところが、実験をしてみたところ、このタンパク質は、人間のα-アミラーゼ活性の阻害効果はないという結果になってしまいました。実験をしていた学生は半べそになっていましたが、そこでめげずに別のアプローチを必死になって探り、興味深い成果を得ることができました。この経験でだいぶ学生たちは成長できたのではないかと思います。
 プロジェクトに限りませんが、試行錯誤しながら実験を進めて卒業研究や修士論文にまとめるといった経験は、考える力、コミュニケーション力などさまざまな力を育てます。これらは、研究者にならなくても社会に出てから大いに役立つものといえます。

細野 このプロジェクトに関わることで、健康長寿という、たくさんの人々の将来の幸福につながる大きなテーマにめぐり会えたことは、学生たちにとって幸運なことではないでしょうか。また、研究の過程で、やろうとしていることに対し、うまくいくことと、いかないことがあることが分かる、うまくいかないのはなぜなのかを必死で考えるといった経験は、またとない成長の機会となります。そういった若い学生たちが人間的に成長していく姿を間近で見られることは、私たち教員にとっても嬉しいことです。その意味でも、プロジェクトに参加できたことに感謝したいと思います。
高校時代から決めていた
研究室で、やりがいを感じる(鈴木)
 山形教授の食品栄養学研究室に所属しています。この研究室では、食品成分の病気に対する予防作用と新規生理機能を分子レベルで解明する研究を行っているのですが、6グループに分かれており、私はそのうちの血管内皮細胞を使った研究の担当です。血管内皮細胞を調べることで、生活習慣病が老化や動脈硬化にどう影響するかを実験によって確かめています。
 具体的には、細胞を培養して、生活習慣病の刺激や食品成分を加えて遺伝子の量を測定します。またタンパク質の量なども、ウェスタンブロットという手法で電気泳動を行い測定します。このウェスタンブロットのプロセスが複雑で覚えるのに苦労しました。でも、これまで分かっていなかったことが分かってきたりすると、やりがいを感じますね。
 高校生の時から、食品成分や食品添加物を調べたりするのが好きでした。附属高校1年の頃から今の研究室に入ることを決めていました。
 将来は食品関連の会社で新商品の開発や品質管理をしていければと考えています。研究室での経験に新しいチャレンジを加え、人々の健康に貢献する仕事をしていきたいです。
立ち止まらずに前向きに
解決方法を探ることを学ぶ(矢口)
 栄養生理化学研究室で、関教授の指導のもと研究を行っています。日本人の死因で大きな割合を占める血栓症疾患の予防に対するガーリック(ニンニク)の香気成分の効果の検証が、私の主な研究テーマになります。
 具体的には血管内皮細胞を培養し、ニンニク香気成分が、血栓症を起こしやすくするタンパク質の発現を抑制することを検証していきます。先輩方の動物実験で一定の効果は確認されているのですが、それをまた細胞レベルに戻して、詳しいメカニズムを確認しているところです。
 関教授は、基本的に学生の意見を尊重し「やりたいことがあったらやってごらん」と言ってくれます。私の場合も今まで研究室では使ったことのない細胞を使おうと思い、自分で論文を集めて、取り組みました。そのうえで関教授に相談しながら、うまくいかなかった原因を改善していきました。
 研究生活で身についたのは、何か問題が起きたときにそこで立ち止まるのではなく、前向きに解決方法を探り、次に進む力です。社会に出た後も、そうしたマインドを大切にしながら、人々の健康維持をテーマに仕事をしていきたいと考えています。
  • 山形 先生
    山形 一雄 教授
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    細野 朗 教授
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