日本大学生物資源科学部

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PICK UP
2016.3.15

PICK UP 学科間連携研究の最前線

本学部には様々なプロジェクトや活動などが行われています。ここではさまざまな角度から学部の中身を紹介し、日本大学生物資源科学部を身近に感じていただける話題を提供いたします。

学部発のDFAT細胞で再生医療に挑む

profile

杉谷 博士(すぎや・ひろし)
獣医学科 教授

森友 忠昭(もりとも・ただあき)
獣医学科 教授

枝村 一弥(えだむら・かずや)
獣医学科 准教授

加野 浩一郎(かの・こういちろう)
応用生物科学科 教授

篠原 千裕(しのはら・ちひろ)
大学院 生物資源科学研究科 博士前期課程2年

森田 大地(もりた・だいち)
獣医学科6年

本学部教員4人のコラボレーションによる再生医療研究が進められています。その中核にあるのが日本大学発の先端技術であるDFAT(ディーファット)細胞。研究の現状と展望について話し合います。

多くの学生に研究に携わってもらい、サイエンスの楽しみを味わってほしい。(杉谷)

コストがかからず安全性の高いDFAT細胞は
動物医療向き
加野 再生医療の実現につながる研究プロジェクトとしては、10年ほど前から、本学部と医学部、歯学部、生産工学部などの教員による「日本大学幹細胞研究会」があり、私の研究室で発見されたDFAT細胞(P4コラム参照)を“日本大学発”の再生医療の技術としての可能性を探っているところです。
 DFAT細胞とは、体から採取しやすい脂肪細胞から、さまざまな細胞に分化できる(多能性のある)体性幹細胞をつくる技術です。iPS細胞と同じく人工的に幹細胞を作製する技術ですが、安全性が高くコストを低く抑えることができます。この技術を人間を対象とした再生医療に生かすことをめざしているのですが、その前に動物医療で実用化が図れるのではないかと考え、数年前から本日お集まりいただいた先生方とともに研究を進めています。

杉谷 私は、ヒトを対象に加野先生が研究を進めてきたDFAT細胞を動物医療に導入するための基礎研究を担当しています。それ以前には、動物の骨髄の間葉系細胞から神経をつくる研究をしていました。それにある程度効果が見えてきたため、今度はDFAT細胞で同様のことができるのではないかと思い、チャレンジを始めたのです。今のところ、実験室のシャーレ(培養皿)の上では、あるトリックを使えば「できるのではないか」という段階までは来ています。そこで、その臨床応用を枝村先生と一緒に進めています。
枝村 私は、動物医療での再生医療実現のための臨床応用実験を行っています。最近はペットも高齢化が進んでおり、高度な医療が求められるようになってきています。獣医領域における再生医療にも十分ニーズがあるといえるでしょう。ですが、動物医療には公的な保険制度がなく、ほとんどが自由診療となります。高度医療になるほど、飼い主さんの負担は大きくなる。その点、DFAT細胞はコストが抑えられるため、動物医療に向いているといえるのではないでしょうか。
 現在は、イヌの脊髄損傷の治療へのDFAT細胞の導入を検討しています。DFAT細胞は安全性が高いとはいえ、免疫拒絶反応や細胞のガン化の危険性はゼロではありません。どの段階で、どんな細胞に分化させれば、長期的な安全性が確保できるか、それらの課題をクリアできれば、十分臨床応用が可能だと思います。

DFAT細胞研究は分野の垣根を越えたコラボレーションのモデルケースです。(森友)

他家移植の技術を確立し
「細胞バンク」事業化へ
森友 DFAT細胞に関してさらにコストを下げ、利便性を高めるためには他家移植の成功例を増やす必要があります。当初DFAT細胞は、自分自身の体から採取した脂肪細胞を、同じ体の別の場所に移植することを前提に研究が進められてきました。そうではなく異なる個体間で移植することを他家移植といいます。ヒト同士の骨髄の他家移植の際、問題になるのがMSC(骨髄間質細胞)のマッチングです。イヌの場合には、移植元と移植先のDLA(イヌ主要組織適合抗原)が適合するかを調べなくてはなりません。私の専門は免疫学ですので、これらのマッチングを検証することで、DFAT細胞の臨床応用を前進させていきたいと考えています。
加野 他家移植の技術が確立されると、大量に作製したDFAT細胞をストックすることが可能になります。いわば「DFAT細胞バンク」をつくり、必要としている獣医師や動物病院に随時提供することができます。現在、日大発のベンチャーとして事業化も検討しています。
枝村 現在、人間の医療については再生医療法が整備されたり、厚生労働省から幹細胞の使用についてのガイドラインが発表されています。動物医療では、そうしたルールづくりはこれからの課題といえます。人間の医療ほど厳格な倫理性は求められないにしても、飼い主の意向に反した無駄な治療、意味のない診療行為は避けなければなりません。ルールに反した行為が横行することは、結果的に研究や臨床の発展を妨げることになります。そうしたことを踏まえながら、現在ガイドラインづくりが進められています。
加野 そのガイドラインづくりに関して、我々の取り組みがモデルケースとなれるといいですね。
杉谷 ルールが定まらないまま、実際の治療が先走るのはよくないですね。単純に「治療して良くなる」という結果があればいいというものでもありません。きちんとしたエビデンス(根拠)のある治療をすることで飼い主の信頼が得られるのだと思います。そのエビデンスをつくるのが大学の役割なのだと思います。
加野 DFAT細胞の実用化が進んだ後には、我々の技術を世界に発信していくことも視野に入れています。たとえばアジアの国々では再生医療を導入したくても、施設やコストの面で不可能というケースもあるでしょう。ですがDFAT細胞ならばこれらの障害は解消できます。

再生医療の実用化を実現し、一頭でも多くの動物を治療していきたい。(枝村)

学生が研究に携わることに
高い教育効果が
加野 DFAT細胞は、学生の教育にも大いに役立っています。たとえばiPS細胞の先端的研究に、学部生が直接関わることはまずありません。ウイルスなどを扱うため危険であったり、扱いが難しく、わずかなミスで細胞が死滅してしまったりするからです。失敗すれば、また多額のコストと長時間をかけてやり直さなければなりません。一方DFAT細胞の場合は、安全で、コストをかけずに短時間で大量に作製することができます。失敗してもやり直しが容易です。そのため、DFAT細胞の研究では実際に学生が作業を行い、データを積み上げてくれています。
森友 本学部は学科が多く、多彩な分野の専門家、研究室が揃っています。そこで学生教育に関しても、たとえば卒業論文研究で研究室同士でコラボし、学生同士が刺激し合い、高め合うようなことが普通に行われています。私の研究室の大学院生が加野先生に話を聞きにいったり、杉谷先生のところにテクニックを学びに行ったりといった、学部のスケールメリットを生かした教育が実践されることで、視野の広い人材が育っていくものと思われます。
杉谷 研究には失敗がつきものです。実験を学生にやらせても、当然、何度も失敗を繰り返すことになります。そしてようやく結果が出てきたときの喜びを経験することが、続けていくモチベーションになります。「失敗してもいつか必ずうまくいく」という経験を積むことは、将来必ずプラスになるはずです。
枝村 臨床効果が目にみえることの教育効果は高いと思います。従来、交通事故などで脊髄を損傷したイヌは、よくなったとしてもほぼ100%車椅子でした。ところが再生医療によって20%は歩行可能になります。そうした現場を目の当たりにし、家族が喜んでいる姿に接したりすることで、研究が実際に役立っていることを実感できます。
加野 応用生物科学科には、再生医療は医学部や獣医学科で扱う分野で、自分たちには関係ないと思っている学生も少なからずいます。それでも、このDFAT細胞のプロジェクトを例に、応用生物科学の成果が再生医療の種になっていることを説明すると、再生医療が医学や獣医学だけのものではないことを理解してくれます。何より、枝村先生や森友先生が実際にDFAT細胞を使って治療しているところを“見せられる”ことの教育効果は大きい。自分たちが学んだ、あるいは実験を行ったことが、実際の医療に役に立っていることを意識できるようになります。
 今後、「獣医領域での再生医療なら日本大学」、さらに「再生医療なら日本大学」と言われることを目標に努力していきたいと考えています。より高いレベルの研究に携わることで、質の高い教育が行えるものと信じています。

DFAT細胞をさらに使いやすくして、世の中に貢献できる技術に育てたい。(加野)

DFAT細胞とは
 これまで、ほ乳類の細胞は、一度分化すると他の細胞に分化することはできないと考えられていました。しかし、私たちは脂肪細胞を天井培養することで脱分化が起こり(図1)、他の細胞に分化できる多能性を持った細胞になることを明らかにしました。この細胞をDedifferentiated FAT cells(脱分化脂肪細胞)、略してDFAT細胞と名付けました(図2)。

DFAT図1,2

DFAT細胞とiPS細胞の違い
 iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、数種類の遺伝子を導入することにより、皮膚の細胞が初期化されてつくられる幹細胞です。iPS細胞は、ES細胞(胚性幹細胞)と似た特徴を持つことから、体を構成するすべての細胞に分化する万能性があると考えられています。そのため、再生医療や難病の治療に有用な細胞として注目されています。しかし、iPS細胞は作製効率が非常に低く、長期間の培養を必要とします。また、外来遺伝子の導入によるさまざまなストレスにより、がん細胞化の危険性が問題視されています。一方、DFAT細胞はごく少量の脂肪細胞から簡便かつ効率的に作製することができます。万能性はありませんが、骨細胞、筋細胞、軟骨細胞など中胚葉系の細胞に分化できるだけでなく、外胚葉系である神経細胞や上皮細胞など、胚葉を超えて分化できることがわかっています。さらに、遺伝子の操作をしていないため、がん細胞化の危険性が非常に少ないと言えます(図3)。
 再生医療では、細胞が安全かつ簡単に作れることが求められるため、DFAT細胞はiPS細胞よりも再生医療に適した細胞になる可能性があります。そのため、再生医療や難病治療への活用が期待されています。

DFAT図3

成果が出れば
世界初になるかもしれない研究にやりがい(篠原)
 加野教授の研究室に所属しています。現在はブタの卵巣から取り出した卵胞顆粒層細胞の多能性獲得のプロセスを調べています。脂肪細胞以外でもDFAT細胞と同じような過程を経て脱分化するのかを、実際に培養することで検証します。培養皿に接着することで脱分化する、という仮説を立てて培養を繰り返す毎日です。卵胞顆粒層細胞の脱分化プロセスについては今のところ論文になっていません。つまり明らかにすれば世界初の発見になる可能性もあります。研究室の各メンバーは、それぞれ異なるテーマが与えられています。自分と同じ研究をしている人はいません。ですので、基本的に作業は一人で行います。うまくいかなかった時などは、対処法を先生と相談しながら考えていきます。
 大学に入学したときには菌類から薬をつくる研究をしたいと思っていました。研究室を選ぶときに加野先生の授業でDFAT細胞のことを知り、「本当にこんなことが可能なのか」と興味をもつようになりました。
 今では、世界初となるかもしれないような研究を任されていることに強いやりがいと責任を感じています。この貴重な経験をぜひ将来に生かしたいと思っています。
問題解決策はまず自分で考えてから
先生に相談する(森田)
 枝村准教授のもとで、卒論研究をしています。取り組んでいるのはイヌの骨髄から間質細胞を採取し、その分化能を調べることです。具体的には、ビーグルの骨髄の細胞が軟骨に分化しているかどうかを、遺伝子検査や染色によって確認していく作業が中心です。
 せっかく採取した細胞ですから、きちんとした結果が出るよう考えながら培養しています。事前にスケジュールを立て、そこから逆算して、どのタイミングで何をすればよいかを決め、準備していきます。
 とはいえ予定通りに行かないことも度々あります。そんなときには、まず自分で対処法や解決策を考えてから先生に相談するようにしています。
 枝村先生は、学生に近い立ち位置でアドバイスしたり、相談にのっていただけます。また、一人でできる研究ではないので、研究室の仲間にも協力を仰ぎながら、より良い結果が出るよう努めています。
 今は昼間は診療の手伝いをしているので、夜になってから自分の研究をするという二足のわらじの生活です。忙しいですが、楽しみながら研究ができています。できるかぎり多くのペットと飼い主の笑顔が見られるよう、これからも頑張っていきたいと思います。
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