天然クローン魚・ギンブナの生殖

  天然でクローン生殖を行う脊椎動物として,我々の身近な河川に生息するギンブナ (Carassius gibelio langsdorfii) が知られている。ギンブナには2倍体(2n=100)以外に3倍体個体(3n=156)と4倍体個体(4n=206)が存在する。 2倍体ギンブナは他の脊椎動物と同様,雌雄異体で有性生殖を行うが,3倍体,4倍体個体はすべてメスで,雌性発生を繰り返すことによって子孫を増やす。これら2倍体,3倍体,4倍体ギンブナの割合は地域・河川によってまちまちであるが,4倍体個体の数は極めて少ないことがわかっている(小林 弘,1984年,月刊 海洋,Vol.17,75-81)。
  3倍体ギンブナはすべてメスであるため,受精には他魚種のオス(ウグイ,ドジョウ,コイなど)精子が必要である。しかし,これら異種の精子は受精後,雌性核と融合せず(ギンブナの卵中には他種の雄性核を膨潤させない仕組みが有り,雄性核はやがて排除される。),精子は発生を進めるための刺激としてのみ用いられる。このように3倍体ギンブナではメス由来のゲノムのみが子孫に伝えられるため,得られた子孫はすべて雌親と同じ遺伝子組成をもつクローンとなる。
 

ギンブナを用いた造血幹細胞移植

  魚類におけるクローン技術は,主として生産技術の向上を目的として行われてきたが,近年,クローンを用いた応用研究がなされるようになってきた(中西照幸,クローンギンブナを用いた・免疫学・遺伝学研究,1992年,Vol. 11,569−574)。当研究室では,魚類造血幹細胞の存在を証明することを目的として,クローンギンブナを用いた造血細胞の移入実験すでに行っている。本実験では,天然クローンギンブナ(3n)クローンギンブナとキンギョを交雑させて作製した4倍体雑種(4n)を用いるが,4倍体雑種は3組のクローンギンブナ由来の染色体セットと1組のキンギョ由来染色体セットを持ち,3nの細胞(組織)を4nに移植した場合,組織適合抗原が一致するため,移植が可能である。また,3n細胞と4n細胞は核DNA量が異なる(3:4)となるため,核を蛍光色素で染色後フローサイトメトリーによる解析を行うことで,両者を簡単に区別することができる。これらギンブナクローンを用いた実験系は血液幹細胞の同定に限らず,さまざまな幹細胞の同定に有効であると考えられる。