学校飼育動物としての魚類−飼育・管理・疾病−

 

日本大学生物資源科学部 獣医学科

魚病学研究室 准教授 森友忠昭

 

はじめに−環境教育の教材としてのアクアリウム−

魚が飼育されているアクアリウムは,外界から隔絶された一つの小環境である.この中で,魚は水槽内の絶妙な生態系バランスに支えられ生きている.こういった観点からみると“魚と水槽”は,それぞれ“人と地球”に見立てることができ,アクアリムは環境教育の有意義な教材となる.また,魚は 人との共通感染症が少ない 臭いが無い 騒音を出さない 省スペースで飼育できるなど,学校飼育動物としてのすぐれた長所を持っており,さらにメダカなどの小型魚は,繁殖も容易で,誕生・成長を短期間(12ヶ月程度)に間近で見ることのできるなど,理想的な学校飼育動物と言える.

 

魚とは―哺乳類は肢が生えた魚−

  魚とは,鰓(エラ)で呼吸し,鰭(ヒレ)を持つ脊椎動物である.広義には,無顎類(ヤツメウナギ等),軟骨魚類(サメ・エイ等)なども含むが,一般的には硬骨魚類(現生のほとんどの魚)のみを指すことが多い. 両生類を始めとする他の脊椎動物(爬虫類,鳥類,哺乳類)は約4億年前に現生魚類の祖先から分岐したグループであり,そのため,魚と他の脊椎動物の体制は,多くの共通点を持つ.

 

魚の解剖・生理(哺乳類と異なる点)

魚を解剖すると,心臓,肝臓,胆嚢,胃,小腸,大腸,腎臓などが認められ,一見して哺乳類の臓器組成と似ていることが分かる.ただし,“肺の代わりに鰾(ウキブクロ)が有る”,“横隔膜が無い”,“魚類の心臓は1心房・1心室である”など異なる点も多い.以下,診療上留意すべき,主な相違点を述べる.

 

l        皮膚−魚の表皮は粘膜−:哺乳類と同様,魚類の皮膚も表皮・真皮からなる.しかし,魚類の表皮は角化せず,すべて生きた細胞より構成され,粘膜と似ている.実際,表皮層中には粘液細胞が多く存在し,多量の粘液を分泌している.このような皮膚の構造のため,長時間水から出して処置を行なう場合,乾燥に注意する必要がある.また,消毒などを行なう時は,刺激の少ない薬剤を選択すべきである.

 

l        鰓−繊細な構造−:鰓は目には見えないが,鰓薄板と呼ばれる多数の小さな板状の構造体によって表面積が広くなっている.この部分には,一層の表皮細胞の直下に毛細血管が分布し,ガス交換が容易に行なえるようになっている.しかし,繊細な構造であるため,機械的に損傷を受けやすく,特に乾燥に弱い.処置時には慎重に扱い,時々飼育水を吹きかけること等が必要となる.

 

l        血球と免疫図1は,魚類(コイ)の血球像を他の脊椎動物(ウズラ,イヌ)と比較したものである.哺乳類の赤血球は無核であるのに対して,他の脊椎動物(魚類,両生類,爬虫類,鳥類)のそれは有核である.また,哺乳類は,血液凝固に無核の血小板を用いるのに対して,他の脊椎動物は,栓球と呼ばれる有核の細胞を用いている.哺乳類は,“赤血球の核を抜く(脱核)”・“細胞質をちぎって血小板を作る”などの新たな血球産生様式を獲得したものと考えられる.一方,白血球である顆粒球,単球,リンパ球(TB細胞)は,いずれの脊椎動物にも存在する.自然免疫(顆粒球・単球・NK様細胞)と獲得免疫(TB細胞)からなる免疫系は,魚類の段階で獲得したものと考えられる.実際魚類においても,免疫記憶の確立を目的とした,数種のワクチンが市販されている.http://www.yoshoku.or.jp/02howto/wakuchin/index.htm

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観賞魚の飼育環境−水槽は独立した生態系−

昔ながらの金魚鉢では,多数の魚を飼育することが出来ない.それは,金魚鉢では河川・湖沼の水浄化作用を再現できないからである.現在のアクアリウムでは,自然環境をいかに再現するかを目的に色々な工夫がなされており,一般的に,“水槽(60L)”,“エアーポンプ”,“ろ過槽”,“照明灯”などが,一式として販売されている.

 

l        魚の飼育は“水づくり”から:水槽一式を組み立て,脱塩素処理した水道水をいれて,すぐに魚の飼育ができるわけでは無い.魚は餌のタンパク質を消化・代謝し,最終産物として有毒なアンモニアを水中に排出する.アンモニアはろ過槽内の細菌によってアンモニア 亜硝酸 硝酸塩と次々に変換され(硝化反応),無毒化される.この一連の浄化がうまくゆかないと,魚はアンモニア中毒や亜硝酸中毒を起こし,死んでしまう.初心者の失敗の多くはこれに起因する.

 

l        魚の数は,最初は少なく2は,水槽をセット後の経過日数と,アンモニア,亜硝酸,硝酸塩の各濃度の変化を示したものである.魚を水槽にいれてから,最初に上昇するのはアンモニアであり,やがて,ろ過細菌がろ過槽内に定着し,亜硝酸が産生され,最終的に硝酸塩となる.水づくりとは,ろ過槽を含む水の浄化環境の構築を意味する.一度,この水づくりがうまくゆけば,魚を健康に飼育できる.最初から多数の魚を入れるのでは無く,12匹の魚からはじめ,水づくりを行なうのが常道であろう.

 

l        水換えは三分の一で:硝化反応の最終産物である,硝酸塩は魚に無害であるが,蓄積すると水のpHが下がる.このため普通,定期的な水の交換が必要である.しかし,全換水による急激な水質変化は,かえって魚に有害であるため,部分的な水換えが望ましい.

 

l        夏場の酸欠に注意:酸素は,暖かい水にはあまり溶けないが,冷たい水には良く溶ける.一方,変温動物である魚類は,暖かければ多量の酸素を必要とするが,寒ければあまり酸素を消費しない.すなわち,溶存酸素量と酸素要求量は逆の関係にある.そこで問題となるのが,夏季である,温度の低い時期に見られなかった,鼻上げ行動(酸欠行動)が見られ,翌日には大量死をまねいたりもする.

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魚類病原体の特徴

l        病は水から:魚類の病原菌の多くは,環境中に常在することが知られている.これらの病原菌は,宿主が健康であれば病気を起こすことは無い.しかし,栄養不良や水質の悪化などで魚の抵抗力が弱まると,発病する.人間が魚の環境を推し量ることは難しい.時には,市販の水質検査試薬等などを用い,水質を客観的に評価する必要がある.

 

l        魚の新規搬入には注意:上記とは異なり,外部から持ち込まれて病気を起こす病原体もある.そのため,外部から新たに魚(飼育水,水草,網なども)を持込む場合には,一定期間の検疫期間を設けたり,適切な消毒を行なったりすることが必要である.

 

観賞魚病気の診断と治療

  観賞魚の疾病と治療に関しては多くの教科書があり,ここでは項目のみを記す.詳しくは以下の書などを参照していただきたい.

 

l        設備の異常

l        行動・外見の異常

l        診断を目的とした麻酔:低温麻酔

l        鏡検:虫体の動きから,病原体の鑑別が可能である.

l        治療:薬浴,昇温療法

 

参考・引用文献

知っておきたい魚の病気と治療,畑井喜司雄・小川和夫・柴田俊幸著,日本動物医薬品

観賞魚マニュアル,R. L. Butcher著(畑井喜司雄 訳), 学窓社

魚介類の感染症・寄生虫病,若林久嗣・室賀清邦編集,恒星社厚生閣