食ビの人々

阿久根 優子 准教授 Yuko Akune 担当科目:世界のフードシステム、国際貿易・投資論、海外フードシステム現地研修

食と地域経済を客観的エビデンスに基づいて探究する

現在の研究内容について、わかりやすく教えてください。

全体の研究テーマは、グローバルなフードシステムの形成要因とその影響を定量的に明らかにすることです。そのために、いくつかの研究を同時並行で進めています。
まず、食品企業の海外直接投資(海外進出)に関する研究です。これまでに、各国間の時間距離(距離を時間で考える)に基づいて計測した各国の食料貿易ポテンシャルが、食品素材企業(製粉企業や製糖企業など)と食品加工企業(製パンや製菓企業など)の相互に要因になっていることを明らかにしました。これは、フードシステムの形成に海外直接投資がかかわることを示しており、グローバリゼーションが進む中で食に関わる政策や取り組みを考えるうえで重要な結果です。現在、データをアップデートして、こうした海外直接投資が投資先の国のフードシステムにどのような影響を与えるのかに関する研究に取り組んでいます。同時に、国内でも地域経済のポテンシャルを測り、食品企業の生産性向上に寄与しているのか、近接する地域との関係はどうなのかにも関心をもって研究を進めています。
こうした海外と国内を同時並行的に分析するのは、グローバリゼーションとローカリゼーションは同時に進むものであり、フードシステムはその両方の流れの中に重層的に存在しているからです。さらに、グローバリゼーションを考えるとき、気候変動は人類共通の直面する問題です。これまでの研究で、気候変動で経済的に最も負の影響を受けるのは農家以外の消費者であることを明らかにしています。つまり、一般に気候変動に適応するための技術は生産者に対してその効果が強調されていますが、実際の効果は生産者だけではなく食の生産活動に携わらない消費者も受けるのです。現在は、生産者の生産性向上と研究開発の空間的な関係性について研究を進めています。

現在の研究領域に興味を持ったきっかけは何ですか。

最初は日本の食品企業の海外進出要因に興味を持ち、その研究をはじめました。そのころ、偶然にも、経済学の理論に空間の概念を取り入れた新経済地理学が提唱されたころでした。その理論は地域経済学や国際経済学にも取り入れられ、それぞれ発展を続けています。
そういった一般化された理論が実際にフードシステムやそれを取り巻く地域経済の現象を説明できるのか、もしできないとしたら何が原因なのかを探っています。

研究の成果をどのように社会に活かしていきたいですか。

グローバリゼーションの中で食やそれに関連する地域経済の振興策として様々な政策や取り組みが行われています。携わる研究がデータに基づいた客観的なエビデンスを提供するという点で貢献できたらいいなと思っています。

研究のやりがいや面白さを感じるのはどんな時ですか。

分析をしているときに仮説どおりの結果を得た時です。例えば、食品企業の海外進出に関する分析では、現地での日系食品企業の産業集積が統計的に意味のある要因であるということを示せた時でした。これは理論での指摘が食品産業でも確認できたということですので、実証研究としての貢献です。また、実際に携わっている人にとっては経験として当たり前のことだとしても、それを統計的に意味のあるものだと示させたということは、エビデンスに基づく政策や戦略に資する結果だと考えています。

反対に、研究で苦労する点、努力する点はどのようなことですか。

分析ツールとして計量経済学的手法や応用一般均衡モデルを使いますので、データ収集や分析の試行錯誤をしているときが一番苦労します。例えば、理論で指摘されていることや自分が重要な現象だと思ったことについて、データが実際に存在しないことも多々あり、あきらめざるを得ないときもあります。また、公表されているデータを使うときは、収集の際の定義までさかのぼってデータの内容自体を吟味します。社会科学のデータは、一定の条件をコントロールした中で生み出されるものではないので、そのデータ自体が様々な要因で生じたものでもあります。そのため、分析結果が想定通りに出ないときもあります。それが結果と受け取るのも1つのやり方ですが、再度、データ自体が何を表しているのか、自分が言いたいこととどの程度マッチしているのか、それらを表すのに適切な分析手法を使っているかなどを何度も検討し、考えられるだけの可能性を試します。時には、洗顔時に「あれをやってみれば!」と思いつきあたふたすることもあります。膨大な時間を使いますが、「やっぱり、そうよね」といえる結果を得た時の感覚は格別です。

これから同じ専門領域を研究する学生に何を期待しますか。

現場を自分の目で見て、理論の指摘を踏まえたうえで、客観的なエビデンスを導き出すことをあきらめず一連の研究活動としてやりぬくことを期待します。

食品ビジネス学科を目指す学生へメッセージをお願いします。

スマホから目を離し、あなたの身近な人々や社会、そして世の中で起きていることを自分の目で直接見てください。大学は思考のプロセスを鍛錬する場であり機会です。食品ビジネス学科では、食を対象に、国境を超える貿易や投資、地域経済への貢献、気候変動への対応など様々な現象を観察し課題を検討することで、論理的思考力を鍛え、実践力を磨き、人々を「幸せ」にすることに貢献する人材育成を目指しています。それは、実際の状況の観察やそれらをまとめた本を読んで、皆さん自身による事実の把握と他者の意見収集から始まります。

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