食ビの人々

谷米 温子 准教授 Atsuko Tanigome 担当科目:フードコーディネート論、食品の官能評価・鑑別論、
調理学実習、フードコーディネート実習

食べることは生きること。
生きることは食べること。

現在の研究内容について、わかりやすく教えてください。

人は食べ物を食べるとき、目で見て認識し、口に運んで噛んで(咀嚼して)食塊にまとめて、飲み込み(嚥下し)ます。健康な人は意識せずに行う行為ですが、高齢者では食べ物が間違って肺に侵入(誤嚥)し、肺炎で死に至ることがあります。人は1日に1.5リットル程度の水を飲む必要がありますが、これまでの研究で水は咽頭部(のど)の通過速度が速いので誤嚥しやすいことを、超音波を用いた生体計測で明らかにしました。誤嚥を防ぐためには食べ物の硬さや粘りを調整することが有効で、水にトロミ剤を添加することで咽頭部の通過速度を遅らせることができます。こうした物質がもつ性質(物性)と咽頭部での食物の通過速度との関係から、安全に嚥下できる食品の物性指標を明らかにすることを目指しています。

現在の研究領域に興味を持ったきっかけは何ですか。

小さい頃から食べることが好きだったので、大学では管理栄養士専攻を選びました。管理栄養士の学びの中で、栄養学的に優れた食品や病気改善に役立つ機能性成分の研究が進んでいることを知ると同時に、加齢や病気などで食べ物を口から食べることが難しい人がいることを知りました。その中で病院や社会では必要とされている物性の調整が、経験則中心で実施されていることが多く、科学的に明らかになっていないことに興味を持ちました。科学的に明らかにすることで、メーカーなどが商品を開発する際の指標になり、安心安全な介護食品を作ることにつながると考え、同級生の多くが病院などの管理栄養士として就職する中、研究を続ける道を志しました。

研究の成果をどのように社会に活かしていきたいですか。

どんなに素晴らしい栄養や機能性を持った食品でも、私たち人間は目で見て食べ物と認識し、口に入れて、咀嚼・嚥下し、消化しなければ、体の中で栄養として使うことはできません。また毎食同じ食感(テクスチャー)、同じ見た目や同じ成分では食べる意欲が低下してしまいます。残念ながら現在の介護食品は、どれも似た物性で見た目も似ているものが多いです。咀嚼や嚥下機能が低下した人でも、目で見ておいしそうと感じ、口から安全に食べることのできる科学的指標に基づいた食品の開発に寄与することで、QOL(quality of life:生活の質)の向上につなげていきたいと考えています。

研究のやりがいや面白さを感じるのはどんな時ですか。

高齢者の食を取り巻く環境が急激に変化している中、在宅向けの介護食品として農林水産省の提唱するスマイルケア食(新しい介護食品)が注目されたり、見た目を意識した商品が続々と発売されたりと、食品企業も食品物性に注目した開発など様々な取り組みを始めています。私自身、大学の卒業研究から高齢者の食を中心としたテーマに携わっていますが、自分の研究結果が社会の中で求められていることに活かされ、誰かを救うことにつながると期待しながら進めています。それと同時に常に情報収集を行わないと置いて行かれる危機感もあり、日々勉強です。

反対に、研究で苦労する点、努力する点はどのようなことですか。

食べ物は不均一で多成分系なので、温度など実験条件を整えることが難しい点です。例えば誤嚥防止に有効と言われているゼラチンをゲル化剤として用いたゼリーは、安定なゲル構造を形成するには24時間冷却が必要で、室温では融解します。また繰り返し実験も必要で、すぐに結果が出ないことも多く、生体計測を用いた個人差も悩みの種です。だからこそ食べ物はおいしく感じる。つまり均一で一成分だとおいしくないし、人によって変化することのない定量的な指標をつくっていくことが必要だと思い、そうした苦労も納得しながら実験しています。

これから同じ専門領域を研究する学生に何を期待しますか。

高齢者の食を取り巻く環境は変化しており、注目されている分野なので、一緒に研究してくれる人を歓迎します。そして食や食を取り巻く状況に関する情報を収集して自分で考え、自分の言葉で語れるように努めてください。インプットとアウトプットにはバランスと努力が必要ですが、議論や発表を通じてアウトプットすることが知識の定着や成長につながります。食の分野は変化しています。新しい情報を収集し、自分で考えて発信する、ということを常に自分自身にも言い聞かせています。

食品ビジネス学科を目指す学生へメッセージをお願いします。

食べることは生きること。生きるためには食べなくてはいけません。ただし、口から食べることができない人がいることを知ってください。そして、食べることで人を生かすことも、死に至らしめてしまうことも認識してください。食品ビジネス学科で食を提供する責任を学んで、たくさんの人においしい笑顔を届ける食べる楽しみを提供できる人を一緒に目指しましょう。

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