環境適応生物を活用する環境修復技術の開発 日本大学21世紀COEプログラム
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研究内容
酸性硫酸塩土壌に生息する微生物
<植物-微生物共生系を用いた酸性硫酸塩土壌修復法の開発を目指して>
砂入 道夫、相澤 朋子
酸性硫酸塩土壌に生育する植物より単離したアルカリ化微生物の解析
 酸性硫酸塩土壌地帯は、土地開発、灌漑農業等による表土の流出に伴って、還元状態にあったパイライト(FeS2)を含む海成粘土層が露出し、パイライト1モルあたり2モルの硫酸が生成することによって形成されます。このような土壌は地球上に約1000万ヘクタール存在し、そのうちの約半分がアジア地域に存在しています。これらの酸性硫酸塩土壌地帯の土壌および周辺水域は硫酸によってpH2〜4の強酸性を示します。
 この強酸性により、土壌中の重金属イオンやアルミニウムイオンが溶出するほか、その強い酸によって酸感受性の農作物等の植生回復は困難となり、特に人口密集地であるアジア地域では食糧生産の観点からも問題となっています。
 われわれは、このような環境下に生息する植物およびその共生微生物は、生息圏をアルカリ化して酸性環境に適応している可能性があると考えています。さらに、この環境適応機能を活用するバイオリメディエーションは経済的で、しかも環境に対する負荷の少ない手法として酸性硫酸塩土壌の修復に有効である可能性があると考えています。
 われわれはこれまでに、ベトナムのpH3.4の池に生息する植物について、その表面に生息する微生物群集の培養法および非培養法による解析を行っています。その過程で酸性の培地を中性化するアルカリ化菌を多数単離してきました。これらのアルカリ化菌は培地中にアルカリ性物質を生産するため、pH指示薬を添加した寒天培地上で生育させると、写真のように周囲のpHを上昇させて培地の色調を変化させます。以下に、これら植物と微生物を用いたアルカリ性物質の解析の一部を紹介します。

 酸性条件で単離されたアルカリ化菌はα、またはβ-proteobacteriaが多く、actinobacteriaも単離されました。これらのアルカリ化菌を培養すると、生育を示す濁度と、培地pHの上昇がほぼ同時に起こっていることが分かりました。この培地pHを上昇させるアルカリ性物質について検討を加え、その同定に成功しました。この物質を培養後の濃度になるように未接種の培地に加えると、培養後の培地とほぼ同様のpH上昇を示しました。このことからも、培地pHの上昇の原因がこのアルカリ性物質によるものであることが示唆されました。また、アルカリ化菌の宿主である植物からも、われわれの同定したアルカリ性物質を検出しました。
 さらに、この植物表面に存在する微生物群集構造の解析を分子生物学的方法(特にPCR-DGGE法)で解析を行った結果、数種のγ-proteobacteriaが優占的に検出されました。
これらの知見をもとに、今後は現地に生息する様々な植物や周辺環境からも同様のアルカリ性物質やアルカリ化菌の検出を試みます。さらに、植物と微生物の共生関係についても検討を加えていく予定です。われわれの研究は最終的に微生物の環境適応機能を活用するバイオリメディエーションに有効な手法の開発につながると考えています。
酸性硫酸塩環境に生息する植物表面のバイオフィルム解析
 微生物は、界面において、細胞外多糖(extracellular polysaccharides, EPS)などの細胞外マトリックスを生産し、自身およびその周囲の微生物を包み込み、バイオフィルムを形成するものが多く知られています。このバイオフィルムの形成により、その内部に生息する微生物は、低湿度、極端なpH、小動物などによる捕食、高濃度の殺菌剤の存在など、微生物にとって苛酷な生育環境においても、乾燥や酸、アルカリ、捕食、殺菌剤などから保護されていると考えられています。
 酸性硫酸塩土壌のような強酸性環境下においても、植物表面に生息する微生物のなかには、EPSを生産しバイオフィルムを形成するものが存在すると予想されます。これらバイオフィルムと、前述したようなアルカリ化菌を用いて、強酸性環境下において植物表面の微細環境を中性あるいは弱酸性にすることができれば、酸性硫酸塩土壌の修復に有効な新規バイオリメディエーション法となることが期待されます。
 われわれはこれまでに、ベトナムのpH3.4の池に生息する植物について着目し、その表面のバイオフィルムの探索および、単離されたアルカリ化菌のEPS生産能に検討を加えたのでその一部を紹介します。
 まず、多価酸性物質を染色するトルイジンブルーでこの植物を染色したところ、写真のように根は強陽性であり、水中茎には斑点状の陽性領域が認められました。それに対して、無菌環境下で生育させた植物では、根は強陽性であったが、茎や葉には陽性領域が認められませんでした。このことは、植物表面にも酸性多糖を含むバイオフィルムが存在することを示唆しており、現在、これらトルイジンブルー染色陽性領域の微生物叢(写真)について検討を加えています。
 また、ベトナムのpH3.4の強酸性池に生息する植物より単離した微生物についてコロニー形態を観察したところ、約2割が著量のEPS生産を示めすムコイド型のコロニーを形成していました。この写真に示した菌株は、ウロン酸を含む酸性EPSを著量生産していました。
 これらのことから、植物表面に生息する微生物のなかには、EPSを生産し、バイオフィルムを形成するものが多く存在することが示唆されました。
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