微生物共生系に基づく新しい資源利用開発 日本大学21世紀COEプログラム
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研究員と研究内容
計画研究班員 磯部 勝孝
日本大学大学院農学研究科博士前期課程修了
1989年〜99年 日本大学農獣医学部(現生物資源科学部)助手
1993年 農林水産省農業研究センターならびに台湾農業試験所にて研究に従事
1999年〜現在 日本大学生物資源科学部専任講師
アーバスキュラー菌根菌との共生系を活用した作物生産に関する研究
 食糧問題や耕地面積の拡大を視野に入れるとリン酸肥料の需要量は今後ますます増大すると考えられる。しかし、リン酸肥料の原料であるリン鉱石の埋蔵量は現在のペースで使用しつづけると近い将来には枯渇することも予想もされている。このようなことから作物へのリンの供給については新たな方法を考える必要がある。幸いわが国の耕地には長年のリン酸肥料の施用と土壌のリン酸吸収係数が高いことによってリン酸が多く蓄積している。ただし、これらのリン酸はアルミニウムや鉄と結合しているためその多くは植物が直接吸収することができない。そこでこのようなリン酸をアーバスキュラー菌根菌(以下、AM菌)の共生によって効率的に作物生産に活用しようとするのが本研究の目的である。我々の研究グループでは過去にインゲンマメを栽培する際、リン肥料の代わりにこの菌を植物に共生させればリン肥料と施用したときと同じレベルの収量を確保することに成功した。ただし、この実験では極めて限定された条件であり、実際のインゲンマメ栽培と著しく異なる条件で栽培している。そこで本研究では実際の作物栽培でこの菌を効果的に活用する方法について検討する。


 まず始めに、全国120箇所の畑から土壌を採取してAM菌の胞子数を調査したところ、胞子数の平均値は風乾土1gあたり1.7個であった。ただし、場所によって胞子数が大きく異なり中には10個以上のところもあった。このことから条件が整えばAM菌の胞子数をもっと増やすことが可能であると考えられる。たとえばその一例として胞子数と土壌の可給態リン含有率との間には負の相関関係が認められ、このことからAM菌の胞子数を増やすには過剰なリン酸肥料の施用をさけ、土壌に余分なリン酸が蓄積しないようにすることが重要であると考えられた。また、採取した土壌でインゲンマメやダイズを育てたところこれらの作物の根に形成された菌根形成率は5%程度で根全体に菌根が形成されることはなかった。一般的には土壌中にAM菌の密度が高くなるほど菌根形成率も高くなることから、わが国の畑の多くで菌根形成率を高めるには土壌中の菌密度をより高める必要があると考える。さらに、採取した土壌のpHはおおよそ4から8.5の範囲にあり、pHが5以下や8以上の土壌でもAM菌胞子は確認された。また、AM菌胞子の発芽はpHが4から10の範囲の溶液では影響を受けることはなかった。しかし、菌糸伸長はpHが8を超えると急激に抑制された。このことからpHが8を超えるアルカリ性土壌ではAM菌根や胞子形成が抑制される可能性が示唆された。したがって土壌のpHが極端にアルカリ性にかたよると土壌中のAM菌胞子数が減少する可能性がある。


 農業でこの菌を活用するには菌の接種源を短時間で大量に増殖させることと畑の中の菌密度を長期に渡って維持させることが重要である。AM菌の接種源となる胞子は一度菌が植物の根に感染しないと形成されない。そこでAM菌の一種G.margaritaの胞子を土耕法で培養したところ宿主植物にダイズを用いたときが最も胞子数が多くなった。また、ポットに充填する土壌の種類や粒径で増殖する胞子数は大きく異なり、直径が2mm以下の赤玉土や黒ボク土でかった。これらのことから土耕法でAM菌の胞子を培養するには土壌粒子を細かくしダイズを宿主植物に用いるとよいと考えられる。今後は通常の作物栽培の中でどのような圃場管理を行えばAM菌胞子数を多くすることができるか明らかにし、短時間で安価に胞子を培養する方法についてさらに検討していく。







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磯部勝孝・小野寺智之・野中大輔・浅野紘臣・兼平勉・篠原正行  宮崎県椎葉村で採取したアーバスキュラー菌根菌の種の同定と胞子の増殖.
土と微生物 57:3-11, 2003.
2
磯部勝孝・村上学・立石亮・野村和成・井上弘明・坪木良雄 アーバスキュラー菌根菌の感染がインゲンマメの 根の形態に及ぼす影響.
日本作物学会紀事 71:91-95, 2002.
3
Isobe K, Tateishi A, Nomura K, Inoue H, Tsuboki Y. Flavonoids in the Extract and Exudate of the Roots of Leguminous Crops.
Plant Production Science 4:278-279, 2001.
4
磯部勝孝 植物の根,菌根の発達と土壌物理性.土壌の物理性 86:39-46, 2001.
5
Isobe K,Tsuboki Y. Relationship Between the Amount of Root Exudates and the Infection Rate of Arbuscular Mycorrhizal Fungi in Gramineous and Leguminous Crops. Plant Production Science 1:37-38, 1998.
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