微生物共生系に基づく新しい資源利用開発 日本大学21世紀COEプログラム
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研究員と研究内容
計画研究班員 中嶋 睦安
日本大学農獣医学部農芸化学科卒業
1967年 日本大学農獣医学部助手
1971年 日本大学農獣医学部専任講師
1984年 日本大学農獣医学部助教授
1987年 カナダ・ブリテッシュコロンビア大学食品科学科客員教授
1992年 日本大学農獣医学部(現生物資源科学部)教授
1992年 国立環境研究所客員研究員
1994年 財団法人日本環境整備教育センター厚生科学研究委員会委員
1999年 日本放線菌学会理事
2002年 日本放線菌学会副会長
2002年 日本学術会議微生物研究連絡委員会委員
新しい海洋性石油資源化微生物における異種間相互作用と利用
 一般に海水中には1 mlあたり105-106の微生物が存在する。これら微生物の間では共生をはじめとした複雑で多様な相互関係が築かれ、複合微生物群集が形成されていると考えられている。一方、石油汚染は、一千種以上の炭化水素化合物の複合汚染であり、汚染域にはアルカンのような短期間で消失する成分から多環芳香族炭化水素(PAHs)のように長期間残留する成分まで含まれている。そのため、実際の海洋石油汚染の主役となっているのは、PAHsなどを中心とする難分解性画分である。バイオリメディエーションは環境負荷の少ない有効な浄化法であるが、従来法のように汚染域に存在する微生物群全体の活性を高めるような手法では、分解性の高い成分の分解が速まるだけで、難分解性画分は分解されずに高濃度に残留することが確認されている。効果的なバイオリメディエーション法を開発するためには、まず、最も重要なステップである難分解性画分の分解を担う微生物を海洋微生物群集の中から特定し、その菌学的情報を収集・蓄積するといった特定の微生物に注目した解析が必要であり、さらに、同微生物が活躍しやすいように微細環境を整える、あるいは、汚染下の微生物群集構造を変化させるなどの複合微生物群集に注目した解析が必要である。この段階では、複合微生物群集における異種間相互作用の制御技術が必須であり、そのため本分担課題では、制御技術の開発およびそれを利用した新規バイオリメディエーション法の開発に取り組んでいる。


これまでの研究成果



1. バイオリメディエーションに有効な機能性バイオポリマーの発見
 
 高濃度石油耐性石油分解菌の探索を行った結果、Rhodococcus rhodochrous S-2株は10000 ppmの石油存在下でも生育できる石油耐性石油分解菌であり、同株の生産する細胞外多糖(S-2 EPS)が、強力な界面活性作用や他の微生物への溶媒耐性をもたらす有効な物質であることを明らかにし、その構造に検討を加えた。




2. 特定微生物の選択的活性化を利用した
  新規バイオリメディエーション法の開発


 石油汚染海洋環境のシミュレーション実験において、S-2 EPSを投与することで、海洋微生物群集の中でもPAHsの分解に最も重要なCycloclasticusを選択的に活性化し、海水土着の微生物群の石油分解活性を大幅に促進できることを明らかにした。


まとめと今後の展望



 バイオリメディエーションの主役は汚染域に存在する微生物群である。有効な浄化手法の開発のためには、複合微生物群集がもつ有用な生理活性を探索し、利用することが大切である。現段階で考える限り、CycloclasticusのもつPAHs分解活性は、海洋に存在する最も強力なPAHs浄化力であるが、通常の海洋複合微生物群集の中では希少なものである。本プログラムの展開により、この希少な生理活性を特定し、有効利用する新規浄化技術開発の可能性を導き出した。本技術の開発は、微生物の生産する機能性物質を利用するものであり、21世紀に求められるクリーンな技術開発に十分応えられるものに発展することが期待できる。そのためには、複合微生物群集における異種微生物間の相互作用や微生物−基質間の相互作用をより深く理解する必要があり、今後、それに必要な理論の構築、解析手法などを検討する予定である。



図2



図3

A:Alcanivorax(海洋性アルカン分解菌)

B:Cycloclastics(海洋性PAHs分解菌)

1
M. Urai et al. A Novel Viscous Extracellular Polysaccharide from Rhodococcus rhodochrous ATCC 53968. Actinomycetologica. in press.
2
N. Iwabuchi et al. Relationships between colony-morphotypes and Bacterial Adhesion to Substrata in Rhodococcus. Colloid Surf. B:Biointerface. 30, 51-60. (2003)
3
M. Urai et al. A moisture-absorbing extracellular polysaccharide from Rhodococcus rhodochrous SM-1. Actinomycetologica. 16(2), 26-31. (2003)
4
N. Iwabuchi et al. Extracellular polysaccharides of Rhodococcus rhodochrous S-2 stimulate the degradation of aromatic components in crude oil by indigenous marine bacteria. Applied and Environmental Microbiology, 68(5): 2337-2343. (2002)
5
N. Iwabuchi et al. Relationships between colony-morphotypes and oil-tolerance in Rhodococcus rhodochrous. Applied and Environmental Microbiology. 66 (11) 5073-5077. (2000)
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