4. 種子繁殖の特性

雑草の発芽・発生にみられる最大の特徴は,その季節性と不斉一性である。ここでは種の存続を種子繁殖に依存している一年生雑草を中心に種子生産種子の休眠,発芽,埋土種子の動態,発生消長についてみる。
1) 種子生産
種子生産においては二つの特徴を持っている。その一つは栄養生長期間が短いか,または短縮されても素早く生殖成長を行う性質(早産性)をもつ。  他の一つは個体あたりの種子の生産量が多い(多産性)。
ハコベは出芽の時期に係わらず出芽から結実までの期間が決まっているが下の図のようにシロザのように出芽の時期に係わらず結実の時期が決まっている雑草がある。この中間的な性質を示す雑草もある。 ハコベに近い草種はスベリヒユ,イヌビエ(量的短日性)がある。シロザに近い草種にメヒシバ,ヒメイヌビエ,カヤツリグサ類(短日性)がある。
ハコベ(遺伝的早産生)とソロザ(可塑的早産生)の早産生の例
多産性についてみるとによると繁殖体への物質分配率はオオムギ,トウモロコシでは35〜40%,他のほとんどの穀類では25〜30%であるのに対して,野生の一年生草本で15〜30%,多年生草本で25%以下である(Harper)。一方種子数は,株当たりコムギで200〜300,イネで約1,000であるのに比べると下の表に示したように雑草は格段に多い。しかし雑草の種子数は可塑性の高い性質をもち,その個体がどのような環境下で生育したかによって著しく変動するものである。
表U-16 雑草の個体当たり種子生産数と1,000粒重
草   種 種子数 千粒重(g) 草   種 種子数 千粒重(g)
カラスムギ 250 17.52 メ ヒ シノ† 32,780 0,71
ツエクサ 1,100 7.50 セイヨウオオノヤコ 36,100 0.20
エノキグサ 1,160 1.30 ナ ズ ナ 38,500 0.10
コメツプウマゴヤシ 2,350 1.20 スベリヒユ 52,300 0.13
ブタクサ 3,380 3.95 シ ロ ザ 72,400 0.70
ヒメイヌビェ 3,950 1.78 カヤツリグサ 111,400 0.13
アキノユノコログサ 8,820 2.15 アオゲイトウ 117,400 0.38
ユノコログサ 11,000 0.62 ヒメムカショモギ 133,400 0.03
ハコベ 18,800 0.13 スカシタゴボウ 156,700 0.06
タコノアシ 125,000
例えば北海道で調べたシロザでは,5月上旬に発生した生育良好な個体で288,239,6月中旬発生で196,576,7月上旬では48,874,8月中旬に発生した極小個体ではわずか158であったと報告されている。したがって上記表の値は大まかな目安であるが,総じて大粒の種子を生産する種は種子数が少なく,微小な種子を着ける草種は種子数が多い傾向にある。
2) 種子の休眠性と埋蔵種子
攪乱の多い環境を生育地として代々生き永らえている雑草にとって,種子の休眠性は 1)1シーズンに僅かしかない最適環境下で生育できるように限られた時期に発芽しなければならない。 2)しかし一度に全種子が発芽してその後の不良環境で絶滅することがないようにしなければならないという二つの相反する必要条件を,最大限満足させる精微な戦略なのである。
a)休眠の種類
Harperは種子の休眠状態を inpate dormancy(primary dormancy,一次休眠,自発休眠,生得休眠)induced dormancy(secondary dormancy,二次休眠 他発休眠,誘導休眠)および enforced dormancy(環境休眠,強制休眠)の3つに区分している。これらを一次休眠,二次休眠,環境休眠と呼ぶが,その違いは次のとおりである。
一次休眠(primary dormancy)
親権物体を離れ発芽能力を持った種子が,胚自身あるいは胚乳などの母親由来の部分に存在するある特性により,発芽好適環境下で置かれても発芽しない状態をいう。一次休眠の原因は胚自体に由来するものと,胚を取り巻く部分(種皮,額,果皮,胚乳)に由来するものに大別される。前者については胚が未熟である場合と胚の代謝阻害とがある。未熟な種子が一定の条件下で成熟し,発芽可能な態勢を整える過程を後熟(after−ripening)といっている。
一方休眠の原因が胚を取り巻く部分にある場合には 1)胚の吸水の阻害, 2)ガス交換の阻害, 3)光の不透性, 4)胚の成長の物理的抑制, 5)抑制物質 (それ自身がもっているか胚から外部への排出を妨害する)があげられる。これらの原因の幾つかが共働する場合もある。種皮の水不透性は,とくにマメ科アカザ科,ナス科,アオイ科などに属する種の種子の休眠機構におしいて,重要な働きをしている。種皮が水を通さないために吸水できず発芽しない種子を硬実とよんでいる。種皮の不達性に起因する休眠は,傷付け(刺傷)処理によって覚醒させることができる。
二次休眠(secondary dormancy)
種子が親植物から離脱・散布されてある期間を経た後も,発芽が可能な環境条件が得られないために,一次休眠こ置き変わって生じる休眠状態をいう。二次休眠はその原因となった環境要因が取り除かれた後も継続する。二次休眠は通常発芽に不適な条件に継続的に置かれることによって誘導され,シロガラシでは高CO2下で,多くのマメ科種子では乾燥で,またスズメノテッポウでは低温・低酸素条件で誘起される。
環境休眠(enforced dormancy)
発芽に不適な環境条件によって発芽が抑えられているが,その要因が取り除かれれば直ぐに発芽できる状態をいう。しかしこの状態は単に発芽ができないだけであって,本来休眠とはいえない。
生態的な観点から「季節的」と「機会的」という休眠の区分もなされる。前者は一年に一定期間だ帽育に好適な環境が周期的にある,つまり温帯のように季節性のあるところでみられる休眠性であって,発芽条件だけ整っても何らかの環境的な引き金がないと発芽しない.一方後者は,土中深く埋没していたために発芽不能であった雑草の種子が,耕起などによって地表に移動し発芽できるようになるような場合である.したがつて前者は予測的,後者は対応的ともいえよう。