雑草学ノート
T 雑草学の役割
 農業の分野において雑草学は,植物防疫(植物病理学:Plant pathology・応用昆虫学:       Entomologyなど)部門の一つの分野である。
 これに関係する分野は,作物学,芝草学,造園学,園芸学など,おおよそ雑草の制御を必要とす る分野に関係が深い。
 基本的な学問分野としては,植物生態学,植物生理学,植物形態学,植物分類学などと深い関  連性を持っている。

 雑草学の研究範囲は以下の通りである。
 1) 雑草の生理生態
 2) 雑草の制御(防除)の方法と雑草・作物の関係
 3) 雑草と対象作物との関係
 4) 1-3の総合的研究

 最近の研究動向
 1) 土壌保全型農業と雑草防除
   不耕起栽培(no-till, minimum tillge):除草体系の確立(不耕起による優占化雑草の問題)
 2) 総合防除
   防除法(化学・生物・物理的手法)以外の病虫害防除をも含めた総合的防除(IPM:Integrated    pest management)
 3) 生物的防除
   古典的(生活の知恵的なものではない)なものでない。微生物(病原性毒素)の利用
   日本では,スズメノカタビラ(Poa annua L.)に対するキャンペリコ(Xanthomonas campestris pv.    poae)が実用化され注目された。
 4) 除草剤による環境汚染
   地下水の汚染に対するアイソトープ(Isotope)などによるモニタリング
 5) 出芽後処理剤(従来は土壌処理剤が中心であった)の開発研究
 6) 除草剤抵抗性作物の育成
   いわゆる遺伝子工学的手法をもちいた除草剤抵抗性遺伝子の作物への導入である。現在,   除草剤抵抗性としてはグリホサート(ラウンドアップ)
   抵抗性遺伝子を組み込んだダイズ(ラウンドアップレディ)が有名である。この他に同様なもの   としてトウモロコシ,ワタ,ナタネ,テンサイ等がある。
   害虫抵抗性遺伝子(Bacillus thuringiensisのもつ毒素,BTタンパク)を組み込んだ作物(トウモ   ロコシ,ジャガイモ)

U 雑草
1.雑草の概念
 雑草とはどのようなものか? 雑草の定義,概念,雑草の性質についてみていく。
 1) 雑草の定義
  これまで雑草は二つの面から多くの研究者により定義されてきた。その一つは「望まれないとこ  ろに生えるすべての植物」といった人間の経済活動の面からの定義である。他の一つは,植物  の本質面からの定義である。いわゆる雑草性(weediness)をもつ植物である。
  人間の活動によって大きく変質した土地に発生・生育する植物(Harper)。つまり,雑草は,野草  と異なり人間による攪乱(disturbance)のあるところに生育しうる植物(群)のことを指している。
 
 2) 雑草の起源
  農耕文化の発達とともに作物でない野草の先駆種(colonizer)が農耕地(常時攪乱)に生育・   繁殖できる植物が雑草(weed)と呼ばれるものである。
  雑草の起源の経路は次のように考えられる。
 
    @先駆種が攪乱した土地に適応したもの
  A栽培種とそれに近縁の野生種が交雑したもの
  B栽培種が逃げ出したもの

  雑草は人為的攪乱がなければ適応できないものと,人為的攪乱がなければ適応できないもの   に大別することができる。その後者の典型的なものは特定の作物と一緒に生育する擬態雑草,  随伴雑草と言われる。これらは,その形態や生育時期,種子の大きさなど酷似しており除草さ   れにくい。
  そのため作物と一緒に収穫され,それが播種される。日本におけるその代表的な例は,水田に  おけるタイヌビエ(Echinochloa oryzicola)である。しかし,詳細に観察すれば,水稲とタイヌビエ  は茎葉や種子の形態は水稲とは異なる。ただし,東南アジアなどに見られる水稲と野生稲の場  合は見極めは困難である。
 
 3) 雑草,野草,作物の特徴
  一般論として雑草は人為的攪乱がある土地で,野草はそれ以外の場所で生育する。作物は人  間の手助けがないと生育・繁殖できない。
  雑草と作物の違いを擬態・随伴雑草であるタイヌビエと水稲の関係で見れば,タイヌビエは多   数の小粒種子を長期にわたり成熟させ,脱粒性がある。
 
  水稲では種子の登熟期が一斉で脱粒性がない(人により品種改良されている。言い換えれば   雑草や野草は多様性(diversity)をもち,作物はある意味でシンプルな形質を獲得している。ゆ  えに,雑草は不良環境にも生育・繁殖することができるが,作物は人の手を借りなければ生育・  繁殖できない。
  かつて,昭和天皇は皇室番記者に「雑草という植物はない」,それぞれに和名や学名がついて  いる・・・と話されて話題になったことがある。





笠原は草本植物を山野草(4000種),人里植物(400−500種),雑草(450種)に区分し,それらの総合関係をまとめた。
帰化植物(800種)雑草は耕地雑草(水田,畑地)を中心としたものである。なお、作物は500種程度ある。


 4) 雑草性(weediness)
  表U-3は雑草の持つ特性は,大きい遺伝的変異(genetic variation)と高い表現型可塑性     (phenotypic plasticity)を持っている。


表U-4はGrimeが提唱する雑草の「C−S−R」戦略論である。